化学の面白さと、こどもの教育について~世界化学年女性化学賞受賞者 相馬芳枝さんに聴く~

更新日:2021年12月15日

平成29年11月11日(土曜日)午前11時~午前11時30分

対談要旨

2011年、世界化学年女性化学賞(国連が定めた世界化学年にあたり、世界で優れた業績を上げた女性化学者を顕彰するために創設された賞)を、日本人として唯一受賞された本市在住の相馬芳枝さんをお迎えし、岡田教育長とともに化学の道を目指されたきっかけや、こどもの教育などについて、お話をお伺いしました。

※市では、相馬芳枝さんの功績をたたえるため、2011年に市民栄誉賞を贈呈。また、市教育委員会では、本市の科学教育の振興を図るため、2014年度から茨木市相馬芳枝科学賞を創設し、市内小中学生の優れた自由研究に対し表彰を行っています。

対談する相馬さん、市長、教育長

まとめ

・失敗も必要。夢を持って頑張ることが大事

・新しいことをして、世の中に発表することで評価してもらえる

・こどもが物事に興味を持つには、親の影響が大きい

・こどもの成功体験を褒めてあげることも大事

・日本では女性研究者が少ないので、模範となる人が育てばいい

対談内容

茨木市相馬芳枝科学賞

相馬芳枝氏(以下、相馬氏):茨木市には、有名な方がたくさんいらっしゃると思いますが、自分の名前を冠した賞(茨木市相馬芳枝科学賞)を作っていただいて光栄です。

スポーツはいろんな賞がありますが、化学は地味な分野です。良い事をしてもらったと思います。

 

福岡市長(以下、市長):いろんなところで頑張っている方に光をあてるのは大事です。

 

相馬氏:化学は光が当たりにくい分野です。縁の下の力持ちのような性質が強いので、そういう人たちに光をあてて将来の目標をつくる、励ましてあげることはいい事だと思います。

 

市長:今日の(相馬芳枝科学賞の)ご挨拶では、どんな話をされたのでしょうか。

(当日、第4回相馬芳枝科学賞の表彰式が行われていました。)

 

相馬氏:応募者の皆さんも、一回で成功したのではなく、数多くの失敗をしていると思います。製品の開発者なども、何度も挑戦し、失敗を繰り返して製品を作っているのだから、皆さんも夢をもって勉強してくださいという話をしました。

 

市長:同感です。私は、教育の目的は、人類の発展に貢献できる人材を育成することだと思っています。そのためには、新しい社会的価値を作り出す人間を作る。そして、新しい社会的価値を作るのは成功だけでなく失敗から学んでいくことが大事だと思います。失敗することはあたり前だけども、だからといってあきらめずに、絶えず突き進んでいくということを言い続けていくつもりです。

 

相馬氏:失敗はつきものなので、それでくじけてしまっては駄目ですね。七転び八起ではなく十転び十一起きくらいかもしれませんね。

 

化学の魅力

岡田教育長(以下、教育長):化学の道を目指そうとしたきっかけは何でしょうか。

対談する相馬さん

相馬氏:好きだから始めました。就職したころ、公害問題が話題になっていたので、公害防止のために、空気中の一酸化炭素の分析をするテーマが与えられました。

分析の開発をしているうちに触媒が見つかり、もっと高性能なものをつくりたいということで第三物質を加えていきました。するとどんどん性能が良くなっていきました。

偶然に新しいことが見つかったから面白くなって、虜になりました。

 

市長:寝る間を惜しむくらいでしょうか。

 

相馬氏:そうですね。見つけたことは特許を取り、論文を書くんですが、評価はされませんでした。でも、新しいことをやるのが大事、世の中に報告することが大事だと思っていました。そんなことしているうちに猿橋(さるはし)賞(第一線で活躍する女性科学者を表彰する日本の賞)をいただきました。

それで、新しいことをやると世の中が評価してくれるんだなと思いました。

それから事業化の試みです。企業から研究者が来られて、実用化に向けた工場をつくりました。

その後、地球の温暖化という話題が出てきて、国の予算をいただくことができました。

そして、研究室を作っていただいて、室長になりました。そこから評価されるようになりました。評価されたのは50代くらいからです。それまでは誰にも評価されず地道に研究していました。

 

市長:今は研究をされているのでしょうか。

 

相馬氏:リタイアして15年経つので、どなたかが引き継いでくれれば嬉しいと思います。

 

市長:現在はどのようなことをされていますか。

 

相馬氏:今は、中学生、高校生を対象に理科の面白さを実験を通して伝えています。

それから、主に大学で女性科学者の育成をお手伝いしています。それで今は立命館のお手伝いをしているんです。

女性研究者に対しては、「充実した自分の人生を送ろう、人のためになるような仕事をしよう、夢をもって仕事をしよう」という話をしています。

 

市長:こどもの時、理科の実験とかは、教科書に答えが書いてあるのに、なんでわざわざ確認しないといけないんだろうという疑問がありました。

 

相馬氏:教科書には当たり前のことが書いてあります。しかし、この(相馬芳枝)科学賞で私が感動したのは、教科書に書いていないことを作ったこどもがいることです。

去年は、トロンボーンを作った子が最優秀賞に選ばれました。そのこどもは吹奏楽のメンバーだから、ホームセンターで塩ビパイプと鉄管を買って、ラッパの部分はじょうごで作ってみようと思ったんですね。それで、自分がつくった作品で演奏してくれました。ちゃんと音階になっていましたよ。手引書ないのに自分で考えて作ったので、これこそ科学賞にふさわしいと思いましたね。

今年の科学賞では、パンにカビがつくのを防ぐのはどうしたらいいかというのが最優秀賞でした。

からし、わさびを室温で置くか、冷蔵庫で置くか。梅干しにはカビがつくが、からし、わさびをいれたのは1~2週間もカビがつかない、ということを調べて優秀賞になりました。これは教科書に書いていないことなんですね。

 

 

対談する相馬さん、市長、教育長

市長:私も知りたい。教えてほしいですね。

 

相馬氏:教科書に書いていないことを見つけたときに面白さが分かるのではないでしょうか。

 

市長:私は自由研究が苦手でした。テーマが決まっていないと何をしたらいいのか、目的は何なのかと戸惑ってしまう。

 

相馬氏:不安ですよね。最初はセミのふ化とか蟻が食べ物にたどり着くなどの地道な研究をしてから新しいものを自分で見つけるのではないでしょうか。

 

市長:先ほどの新しい社会的価値を作るという話ですが、課題を解決することは誰かしらできますが、課題を発見することは難しい。僕は、課題を発見できるようにすることが本当は大事だと思っています。

 

相馬氏:そのとおりですね。優秀作品に選ばれた子はそれをやっています。今年は蜘蛛の巣を展示用で紙にくっつけてきてくれました。

蜘蛛を題材に研究しようと思う人は少ないと思いますが、その子は目が輝いていました。蜘蛛はお日様に当たると弱く、夜は安全だから巣を作るそうです。そのへんもじっと見ていたのでしょうね。その子は将来、蜘蛛の糸を人工的に作りたいと書いていました。

 

市長:蜘蛛の糸を人類の使えるサイズにできるとしたら、それはすごい発明ですね。

 

教育長:鉄よりも強いと書いてありましたね。

 

相馬氏:そこまで気づいたのは凄いです。来年もよい作品を出してほしいと願っています。彼の素敵なまなざしを見て、素晴らしいなと思いました。

 

市長:どのようなプロセスをたどれば、そういう子どもが育つのでしょうか。

 

相馬氏:親の影響も大きいでしょうね。(相馬芳枝)科学賞で、蚕の研究をしている子もいました。その子は4年間くらい蚕の研究をしています。蚕は早起きなので、家族で早起きしていました。お兄ちゃんが先に優秀賞を受賞して、次の年は、妹がさらに立派な作品を作ってきました。これは環境が整っていたからできたものだと思います。

 

市長:トロンボーンの子なんかは、うまく作れるのかどうか分からないけど、自分で「できる」と思えるのはなぜなんでしょうね。

 

相馬氏:トロンボーンの子は普段から吹奏楽団で既成のものを使って演奏していたので、原理を振り返っていたのではないでしょうか。これなら自分でも作れるんじゃないかと。

そして、それをやってみて、成功したのがすごい。

 

市長:自分ができると思うところがすごいですね。できない理由を考えることから入る人も多いけど、それを一歩踏み出せるのは何でしょうか。一歩さえ動けたら、後は勝手に動きだしますが。

対談する市長、教育長

教育長:何か小さな成功体験でもあったんでしょうかね。

 

相馬氏:家族が成功体験教えてあげることも大事かもしれませんね。立てた時、歩けた時、お箸が使えた時、いろんなことでほめてあげること大事です。

 

市長:私の中では、怒ることに何の意味も持ってないと思っています。怒られても負の感情しか生まれてきません。負の感情を解消することも考えて怒るのだったらいいのですが、そうでなければ意味はない。

 

相馬氏:そのとおりだと思います。たまに励ましてあげることも大事です。

科学分野における女性研究者

市長:研究者は男性社会では無くなりましたか。


相馬氏:いえ、まだ9割は男性社会ですね。小学校の間はいいのですが、高校、大学といくにしたがって減っていきます。大人側に「理科は男性がふさわしい。女性は教育、文化がいいのではないか」と周りが植え付けるから女性も自然に思い込んでしまうのかもしれません。

 

市長:あとは、「ああいう人になりたい」と思う人に出会えるかどうかですね。

 

相馬氏:そうですね、お手本も大きいと思います。小中学校の理科に女性の先生が多いと研究者も多くなるというデータがあります。例えば、ロシアは理科に女性の先生が多い。

アメリカでも女性が多い。日本ではまだ女性の先生は少ないのではないでしょうか。

データでみると日本の中学高校の女性の先生は外国と比べると少ない。それで研究者の数も少ない。女学生の数も少ない。だから、モデルとなる人を育てることも大事だと思います。

茨木市は率先してこのような科学賞をつくられたから、きっと女性の科学者も育つのではないかと思います。理科好きの子どもたちが育つのではないでしょうか。

 

市長:科学分野の道を選ぶ時に、相馬先生のことが頭によぎるようになってほしいです。

 

相馬氏: 小中学校の校長先生などに、お手本になるような人がたくさんできれば女性の研究者も育ちやすいのではないでしょうか。

対談する相馬さん、市長、教育長

語学の学び方

相馬氏:先日ミネアポリスの方と交流させていただいて、外国との交流も30年続いています。

 

市長:英語を使われているのですか?

 

相馬氏:なかなか難しいですね。対面するとこちらに合わせてくれるから大丈夫なんですが、欧米人同士の会話に入っていくのは大変ですね。

 

市長:上達のために行ったなどはありますか?

 

相馬氏:40年前に1年間ほどカリフォルニア大学に留学したんです。語学をマスターするには、 その場所に行くのが一番だと思います。市役所の中でも留学制度はあるのですか?

 

市長:留学制度はありませんが、JICAには年間2人くらい行っています。

 

相馬氏:現地に飛び込むのがいいですね。異文化の吸収にもなりますし、ダイバーシティにもつながります。幅広い、包容力のある人間になるのではないでしょうか。

 

市長:市役所に就職すればずっと市役所での勤務。最初の1~2年は全員が必ずどこかに別の組織で働く仕組みがあればと思います。

 

相馬氏:それはいいですね。他府県に行くのもいいし、企業に行くにもいいですね。海外に行けたら一番いいと思います。

 

市長:ありがとうございました。引き続きご意見いただければありがたいです。

 

相馬氏:ありがとうございました。