これからの茨木のまちづくり ~地域エコノミスト 藻谷浩介さんに聴く~

更新日:2021年12月15日

対談要旨

 「里山資本主義」(角川新書)等で著名な地域エコノミストの藻谷浩介さんに、 茨木市のまちづくりに関して、他市事例も踏まえてご意見を頂戴しました。

椅子に腰掛けて話す地域エコノミストの藻谷浩介さん
椅子に腰掛けて話す茨木市長

まとめ

  • まちの新陳代謝を上げるためには、住民との密なコミュニケーションが重要。
  • 遊休農地を市民農園として活用して、近くの住宅の魅力も増やす。
  • 若い女性が住み続けたくなるような街並みをつくろう。

対談内容

持続可能なまちづくりへ向けて

福岡市長(以下、市長):少し説明させていただいた茨木市の状況ですが、どのように感じられましたか。

藻谷浩介氏(以下、藻谷氏):日本中、色々な所のまちづくりを見ていますが、茨木市はよく頑張っていますね。京阪間の自治体を比べても、茨木は優秀な方です。それは、プランニングやストックがしっかりしているからだと思います。
 とはいっても、安泰ということではありません。茨木市も大阪市も、実は東京の都心部でも、総人口は増えていますが、生産年齢人口(15~64歳人口)は減少に転じています。増えているのは老年人口(65歳以上人口)だけなのです。理由は人数の多い団塊世代が65歳を超えたことですが、これからも毎年、65歳を超えていく人の数の方が、15歳を超える人の数+市外から転入してくる現役世代の数より多いので、「人口増、しかし増えているのは高齢者だけ」という状態が続きます。住民税収は下がりますし、医療福祉費関係の歳出は年々増えていきます。
 それでも各駅周辺の市街地は、賃貸住宅に若い世代が流入することで問題が緩和されますが、ニュータウン型のまちは、一度売れてしまった後は年齢層の入れ替えが少ないので、高齢化が急速に進みやすいのです。

窓枠に両手を着き、茨木市内の眺望を指差しながら語る、藻谷氏と市長

市長:持続可能なまちになるためには、まちの新陳代謝をどう上げるかが課題です。

藻谷氏:ご説明をうかがい、市長がこの問題に関して的確にご理解になっていることに感銘しました。ぜひ市民の皆さんにも、丁寧に都市像(ビジョン)を説明してください。
 千葉県の浦安市を事例にしますと、東京駅まで20分かからない利便性から、ディズニーランドが開業した前後に急速に宅地開発が進んで、人口が何倍にも増えたのです。しかし一気に移り住んだ層はその後30年間にどんどん加齢し、高齢者ばかりの地区も出てきました。多数新設された小学校の中には、10年未満で閉校した例もあります。ディズニーランドやホテルなどの固定資産税収入が多いにもかかわらず、このままでは財政が急速に悪化すると、市では予測しています。ポテンシャルの高いまちでも、ビジョンを持たずに開発を進めると、特定の年齢層の人口だけが増えて、将来の負担が増えるということです。
 日本全体を見ますと、数少ないですが、ニュータウン型でありながらこの問題を回避できている例はあります。有名なのは千葉県佐倉市のユーカリが丘です。東京から乗り換えて1時間以上かかるうえ、各停しか止まらないのですが、人口がゆっくり増え続け、高齢化も進んでいません。成功の秘訣は、この地区の民間デベロッパーが、毎年一定戸数しか売らないことで住民の年齢に偏りを作らないというポリシーを、開発以来40年近く堅持していることです。このデベロッパーは、全戸の住人の状況を把握していて、きめ細やかな住人サポートを行い、年齢に応じた住み替えを仲介しています。子供の巣立ったお年寄りに暮らしやすいマンションに移ってもらい、元の家は子持ち家庭に転売する。介護が必要になったお年寄りはさらにグループホームに移ってもらい、後に元気なお年寄りを入れるという、三段階の仕組みを地区内で実現しています。駅に近い区画では、各戸の前にロックガーデンを造るという景観協定を結んでもらい、希望者からは格安でそのメンテナンスを受託しています。景観が綺麗になることで区画のブランド価値があがり、その家を手放す時に高く売れるようになりました。普通のデベロッパーにはなかなかユーカリが丘のような理想的な経営はできないのですが、真似できる部分はあるのではないでしょうか。

市長:関西ではどうでしょうか。

藻谷氏:関西では首都圏以上に、旧来型のニュータウン開発への反省が乏しいように感じます。大阪市内でのマンション供給は盛んですから、郊外都市ならではの価値を打ち出さなければ、ニュータウンに勝ち目はありません。そういう中でも優れた事例としては、神戸市北区の上津台地区でしょうか。工務店が連携して、緑に埋まった木造住宅が並ぶ区画を建設しています。
 そもそも日本全体で10年に1割減のペースで生産年齢人口は減りつつあるのですから、ニュータウン開発は抑制的にやるべきです。特定の時期に集中して若い世代の流入を増やすと、将来のある時点で高齢者が急増してしまうからです。むしろ既存の開発地で、点在する空き家への若い世代の流入を進めなくてはなりません。幸い都市コンサルタントは、関東より関西の人材層が厚いので、センスのいい人とうまく組めれば、都市全体の年齢循環再生戦略が描けるかもしれません。

大きなまちの図を広げながら話す藻谷氏と市長

里山活性化へ向けて

市長:山間部の活性化も茨木市の課題です。

藻谷氏:茨木市もそうですが関西の里山地域は、大都市地域に近接しているにもかかわらず、九州や四国の山村よりもむしろ過疎化が激しいですね。能勢などでは、全国の市町村でもトップクラスで人口減少が進んでいます。

市長:どのような対策が望ましいとお考えでしょうか。

藻谷氏:すぐ横の都市住民を商売相手に、できることがたくさんあります。まずは地元のリーダーの若返りが必要です。今の日本では、都会から離れた離島や山奥に、お年寄りも増えていない、子どもも減っていない、現役も減っていない、未来のはっきり見通せる明るい過疎地域が登場し初めています。島根県隠岐郡海士町などが有名ですね。そういう場所には、以前に50代から60代前半の自治会長や首長が誕生し、地域の顔役の若返りが起きたという共通点があります。そこからその方たちが70代になるまで、すなわち10年~20年までの間に、彼らが女性や若者と手を組んで、いろんな変化が起きるのです。
この近隣では篠山市のNPOノオトが類似の事例です。
 山間部の耕作放棄地は、NPOなどで借り上げて、農業をやりたい方の為に、市民農園などにしてはどうでしょうか。子供の自然教育もいいですね。例えば山口県周南市では、廃校になった学校を市が退職高齢者中心のNPOに貸し、都市部の子供に野外体験などをさせています。また、富山市役所が農業をしているのをご存知ですか。中国の需要増加で漢方薬の原料が不足していることから、市が農業振興地域の農地を買い取り、これを民間のつくった農業会社が借りてエゴマを作っています。敷地内に加工工場もできました。
茨木市でも山間部の遊休農地を市民農園として活用することにより、近くの住宅も魅力が増します。退職したお年寄りが畑にいそしむことで、健康にも良く福祉や医療費も減ります。

茨木が目指すべきまちづくりとは

市長:今、日本中の自治体をあげたゼロサムゲームが行われていると感じていて、これにどこまでついていくべきか悩んでいます。財政が厳しい中、高度成長期時代の設備の更新などにどんどんお金が必要ですが、どのように考えるべきでしょうか。

藻谷氏:例えば、尼崎市長は「ここまではやる」「ここから先はやりません」とはっきり言っています。どうやって線を引くかという事ですが、尼崎市は地域でいろんな勉強会をしながら、住民の認識を変えていく、納得していただくことを時間をかけてやっています。富山市長は、「自治会や民間企業が自分からお金を出した場合に、市も同額を出して優先的に事業を行う」という手法をとっています。例えば、自治会が運営費を半分出したところにはコミュニティバスを走らせているのです。市の公園に茶室を作って欲しいという要望に対しても、茶道愛好家が集めてきた寄付金に同額の市の予算を出して、実現しました。

まちの図を見て話す藻谷氏と市長
まちの図を挟んで話し合う藻谷氏と市長

市長:今のところ、茨木は個性があまり出せていないように感じており、今後取り組んでいく予定にしています。

藻谷氏:茨木の市街地の活性化には、たとえば大阪市の福島区のような路線を狙ってはいかがでしょうか。若い女性がここなら住みたいと思うような、おしゃれなカフェ、ベーカリー、服飾雑貨の店が点在する街です。関西のデベロッパーは何でも駅ビルやモールに入れたがりますが、若い世代はもっと自然な街並みを求めていると思いますよ。センスのある内装業者と若者に経営指導できる商業コンサルが一人ずついれば、すぐにそういう店は増やせます。川端通りあたりを東京都世田谷区の下北沢ふうにするとか・・・
そもそも茨木市は、基本的な街の骨格がわかりやすい。JRと阪急の間に市役所と茨木神社があって、歴史と緑のある公共空間になっています。外国人が見たら、これは日本らしい由緒ある街だと、とても魅力を感じると思いますよ。

市長:ありがとうございます。今、タワーマンションが流行りですが、どのように思われていますか。

藻谷氏:タワーマンションは建てても駅前に1つとかにし、他は高さ制限をすべきだと考えています。超高層建築は改修にも取り壊しにもたいへんお金がかかります。オフィスやホテルなら毎年の利益の中から費用を積み立てられるのですが、分譲マンションだと十分な金額が積めないうえ、住民が高齢化して空き室が増えはじめるとますます資金不足に陥りやすい。超高層マンションは、現代日本人が知らず知らずに作っている負の遺産の中の最大級のものですよ。

市長:本日は、大変貴重なお話をありがとうございました。