特集1 未来へ成長する子どもたちへ
茨木の教育の軌跡とこれから
子どもたちは一日の大半を学校で過ごし、そこでの学習や経験を通じて、驚くほど成長していきます。本市教育委員会では平成20年度から昨年度までの9年間、3年間を1つのサイクルとしてプランを策定し、学力・体力向上に取り組んできました。他府県の教育行政機関等からの視察や講演依頼がここ3年間で96件にのぼるほど、この取組みは全国的にも注目されるなどの結果を出しました。そして今年度から、新たなプラン「茨木っ子グローイングアッププラン」に基づく取組みを始めています。今回の特集では、これまでの教育の成果と、これからの取組みについて紹介します。問合先 学校教育推進課 電話620-1683
9年間の成果
始まりの学力3か年計画
本市では平成18年度から学力向上施策を策定し、平成20年度には最初の学力向上3か年計画「茨木っ子プラン22」をスタートさせました。ちょうどこの頃、全国学力テストが始まり、全国的に学力向上施策の必要性が注目され始めました。
このプランでは、子どもに育みたい力を伸ばすことと、学力向上(学習事項の定着)のために、学力低位層(正答率40%以下)への取組みに力を入れました。また、実施・検証・改善、という組織的かつ継続的なサイクルの確立にも注力しました。その結果、3年間で、小・中学校ともに学力テストの平均正答率が向上しました。
しかし、中学校での学力低位層が増加したこと、学校によって取組みに差が出たこと、この2つの課題が浮き彫りになりました。
取組みの成果は学力に
平成23年度からの「茨木っ子ステップアッププラン25」では、体力向上とともに、前プランの2つの課題に取り組みました。中学校の学力低位層を減少させるために、授業改善と個別支援の充実に力を入れました。また、各学校の学力向上担当者の役割を大切にし、担当者が集まって話し合う内容を充実させ、各学校の取組みを支援しました。その結果、平均正答率はさらに向上し、小・中学校ともに学力低位層が減少し、高位層(正答率80%以上)が増加しました。そして、中学校においては、全国平均より少なかった高位層を全国平均より多く、全国平均より多かった低位層を全国平均より少なくすることができました。
平成26年度からの「茨木っ子ジャンプアッププラン28」では、これまでの学力向上の基本的な考えを継承しながら、進学等で子どもたちがつまずかないために保幼小中連携に取り組みました。このプランの最終年度の全国学力テストでは、本市の中学校が全国1位の都道府県と同等の水準となりました。
一人も見捨てへん教育
すぐに学力を向上させるような特効薬はなく、継続的に取り組むことが、何より大切です。本市の学力が著しく向上したのは、単に平均点だけに注目するのでなく、学力高位層を増加させ、低位層を減少させることに焦点を当て、すべての子どもの学力を向上させる「一人も見捨てへん教育」を9年間継続してきたことが最大の要因です。
内なる力を見える化
また、学力を向上させるには、単に知識や技能といった、いわゆるペーパーテストで測ることができるものだけを高めるだけでは十分ではありません。学力の根幹にある関心・意欲・態度など、子どもの内面を伸ばすことが重要です。しかし、それらは形となって見えるものではありません。そこで3つの全てのプランでは、子どもに育みたい力として「ゆめ力」「自分力」「つながり力」「学び力」(新プランでは「元気力」を追加)を独自に設定し、それらを点数化ができるようにしました。点数化により内なる力を見える化することで、具体的な目標を設定することができ、弱点や不十分さを克服するための方策を具体化することができました。
子どもに育みたい5つの力
- ゆめ力
- 将来展望を持ち、努力できる力
- 自分力
- 規範意識を持ち、自分をコントロールできる力
- つながり力
- 他者を尊重し、積極的に人間関係を築こうとする力
- 学び力
- 学校の授業で、意欲的に学ぶ力
- 元気力
- 健康・体力を保持増進できる力
Interview
求められるのは結果を出し続けること
ここ10年でこんなにも学力が向上した自治体は、私の知る限り茨木以外にはありません。ここまでの結果が出たのには、3つの要因があったと考えられます。それは、根っこの学力である5 つの力を大切にしたこと、学力低位層に目を向けたこと、そして教育委員会と学校がうまく連携することで、全員の意識統一ができ、組織として機能したことです。特に学力低位層を減らす取組みは全国的にも珍しいものです。目標値を設定したことで、実現に向けて何をするかをしっかりと見定めることができ、低位層を減らし、高位層を増やすことに成功しました。
今後、茨木の教育に求められるのは全国トップレベルまで向上した学力を維持することです。成長戦略に成功した後、結果を出し続けるのはとても難しいことです。そのためには、現在行っている事業の質を高めていく取組みが必要です。また、不登校の児童・生徒を減らし、学校をみんなが当たり前に学べる場所にすることも、とても重要な課題です。
大阪大学大学院人間科学研究科教授 志水宏吉さん
次なるプランへ
そして今年度から、新たなプランがスタートしています。次では、その新たなプランについて紹介します。
茨木っ子グローイングアッププランがめざすもの
これからの社会をたくましく生き抜く
社会はめまぐるしく変化し、子どもたちを取り巻く環境は、貧困や虐待など、より厳しさを増しています。そこで今年度から始まる「茨木っ子グローイングアッププラン」がめざす子ども像は「困難や挫折を乗り越え、これからの社会をたくましく生き抜く子ども」としています。
総合的な施策への転換と子どもとの時間の充実
これまでは学力・体力向上に焦点を当ててきましたが、新プランでは外国語教育や道徳教育の推進、いじめ・不登校などへの対応、支援教育の充実など、さまざまな課題に対応する総合的な教育施策を行っていきます。
一方で学校業務の増大による教員の多忙化が、こうした取組みの妨げになっています。教員が時間的・精神的に余裕を持って、子どもと向き合うことができるよう業務改善を進めます。
その他にも、学力テストの正答率20%以下の層を学力向上の指標に加えるなど、新たな取組みを実施していきます。
教育格差の無いまちへ
家庭環境の差が、そのまま学力の差、進学・就労・賃金の差につながると指摘されています。そのような教育格差を是正し、子どもたちに豊かな進路を保障するための取組みを、この新プランを通して全力で行っていきます。茨木の教育はこれからも「一人も見捨てへん教育」なのです。
総合的な教育内容の充実
学力向上だけでなく、豊かな人間性を育むことや健康・体力を増進することなど、多岐にわたり教育活動全体を支援します。新プランから始める主な事業を紹介します。
学習サポーター
子どもの学習活動を充実させ、個別の教育的ニーズに応じた学習支援、生活支援を行うために、教員免許を持つ学習サポーターを小・中学校に配置します。
授業に先生と一緒に入って、分かりづらそうにしている子どもをその場でサポートしています。子どもたちの学習に対する不安を取り除き、授業でつまずかないように支援しています。
学習サポーター 高岡三千代さん
学習の手助けだけでなく、学校生活の支援や不登校の子どもの支援もしています。担任の先生や他のサポーターと子どもの情報を共有しながら、適切な対応がとれるように心がけています。
学習サポーター 中原みゆきさん
英語で遊ぼうデイ
公立幼稚園・保育所へ年2~ 3回NET(外国人英語指導講師) を派遣し、外国語に楽しく触れる機会を設け、早い段階から外国語への興味・関心を高めます。
大学連携体力向上プログラム
立命館大学と連携して構築した短時間運動プログラムを実施するとともに、体育・保健体育の授業改善を進め、子どもの体力向上、運動への意識向上を図ります。
合理的配慮指導員
合理的配慮指導員(作業療法士等)を各校に派遣し、子どもの特性に応じて、子どもが学びやすくなるための工夫(合理的配慮)の充実を図ります。
いのちの教育推進交付金
命の大切さを学ぶための体験活動や聞き取りなどの学習を市内すべての中学校で実践するため、交付金制度を設けます。
生徒サポーター
中学校での生徒支援体制の充実を図るため、不登校やその傾向にある、または集団になじめない生徒の支援を行います。
不登校やその傾向にある生徒の話を聞いたり、家庭訪問をしたりして、生徒それぞれに合った支援を行っています。義務教育が終わる前に、生徒がしっかりと生きていく力を養えるように、先生とともに取り組んでいます。
生徒サポーター 尾嶋博子さん
子どもと向き合う時間を増やす
昨年10月に市内小・中学生の保護者を対象に行ったアンケートで、「学力向上のために必要なこと」の上位に教員の多忙化解消がありました(下記参照)。子どもと向き合う時間を増やすため、新プランから始める主な事業を紹介します。
「学力向上のために必要なこと」の保護者アンケート結果
- 教員の授業力向上
- そう思う:79.7%
- どちらかと言えばそう思う:18.6%
- どちらかと言えばそう思わない:1.4%
- 思わない:0.3%
- 教員の多忙化解消
- そう思う:63.2%
- どちらかと言えばそう思う:33.0%
- どちらかと言えばそう思わない:2.8%
- 思わない:1.0%
- 35人学級
- そう思う:63.6%
- どちらかと言えばそう思う:26.2%
- どちらかと言えばそう思わない:7.8%
- 思わない:2.4%
- 公民館学習教室
- そう思う:29.6%
- どちらかと言えばそう思う:41.0%
- どちらかと言えばそう思わない:23.5%
- 思わない:5.9%
- ICTの充実
- そう思う:25.1%
- どちらかと言えばそう思う:39.5%
- どちらかと言えばそう思わない:27.6%
- 思わない:7.8%
全校一斉退校日
中学校部活動休養日
全小・中学校で週1日、定刻退校を原則とし、遅くとも午後6時30分には教員が退校する全校一斉退校日を設定します。中学校の部活動では、全部活動に週1日の休養日を設定するほか、休日に顧問が部活指導をしない日を年30日以上設定します。
SSWアドバイザー
SSW事業アドバイザー
いじめや不登校で悩む子どもやその家族を、保健・医療サービスとつなぐなど、福祉面で支援するSSW(スクールソーシャルワーカー)の活動をより充実させるための支援や研修を行います。
出退勤システムの導入
教職員の勤務時間を適正に把握するために、ICカードによる出退勤システムを導入します。
業務サポーター
業務改善サポートチーム
教員の事務負担を軽減するため、印刷、授業準備、事務作業などを行う業務サポーターを小・中学校に配置します。また、業務改善サポートチームを派遣し、学校が進める業務改善の支援を行います。
750人近くいる全校生徒全員分のプリントを印刷するだけでも、とても時間がかかります。そういった業務を私が引き受け、先生が子どもたちと接する時間が増えるよう支援しています。
業務サポーター 吉田真弓さん
業務サポーターと教員をつなぐパイプ役をしながら、サポーターへの仕事の配分を管理しています。サポーターの活用による教員の負担軽減の効果は大きく、平日の残業時間が半減した人もいます。
業務改善マネジメント担当者