特集 市史を編む
問合先 市史編さん室 電話622-2184
昨年7月、第2・第3巻を刊行し、ついに全10巻が揃った「新修茨木市史」。旧石器時代から現代にいたる歴史をまとめた本である市史は、多くの人の協力で生み出されました。所蔵していた資料を提供してくださった人、長期間地道な編さん作業に携わった人など、市史とつながる多くの人たちの力で、18年かけて完結することができました。
今回の特集では、編さんの軌跡をたどり、発刊への道のりと市史の内容を紹介することで、だれもが親しめる市史の魅力をお伝えします。
新修市史が完結
市史編さんの軌跡
はじめての市史の発刊は、昭和44年。市制施行20周年記念事業として全一巻で発刊されました。それから30年余りが経ち、新しい発見などもあったため、平成10年から、市制施行50周年記念事業として、新修市史の編さんが始まりました。
今回は、時代の流れに沿った通史だけでなく、考古学・地理学・美術史・民俗学などの分野を取り入れた史料編も編さんし、総合的な市史となりました。途中、全10巻の市史のほかに、特に紹介したい資料をまとめた史料集を20冊、調査・研究の報告として年報を14冊発刊しました。そして、実に18年の歳月をかけて、ついに昨年7月に完結しました。
貴重な資料を後世へ
市史の編さんには、原始古代から今日までの茨木の歴史を、さまざまな分野の調査により、記録にとどめ、整理することで、後世に伝える役割があります。
編さんは、まず、市内全域に残る古文書や考古・美術・民俗資料などの調査から始まります。調査結果は記録され、目録情報として整理し、基礎資料となりますが、市史に掲載されるのはこのうちほんの一部の資料です。
これらの資料は、茨木の各時代を生きた人々の営みが形として現代に残されてきたもので、整理・保存されなければ、時間の経過とともに、消え去ってしまいます。しかし、資料が整理・保存されていると、今後、歴史研究での新たな視点や方法が出てきた場合も、その資料から、新たな歴史的事実が再発見されることがあります。貴重な資料を記録し保存していくことは、現代に生きる私たちにとって大切であり、将来にわたり価値があることです。
つまり、市史を編さんすることは、次代に継承すべきものを見出し、確実に引き継いでいくことなのです。
市史ができるまで
市史の編さんには、地道な作業が必要です。特に、地域に残る資料を探し出すこと、その資料を調査し記録すること、そして、それらを整理し、いつでも取り出せるようにすることが大切です。
市史は、さまざまな工程を経て、その集大成として本となり発行されます。ここでは、各工程を順を追って説明します。
1 市史編さん委員会の開催
市史編さん委員会は、当初、専門委員10人、市の委員3人の、計13人で編成されました。まず、委員会で全体の方針を決定します。その後、各分野の編さん委員と執筆委員で構成される分野別部会で、各巻ごとに編集会議を行い、調査や執筆について、内容や分担を決めます。
2 資料収集・調査
資料の収集・調査の際は、直接現地へ行くことがほとんどです。古文書は、人づてで所蔵者を探したり、直接訪問して状態を確認します。また、言い伝えや習わしも大切な資料のひとつなので、聞き取りを行います。
調査内容は分野ごとにさまざまで、考古では遺跡・遺物などを、美術工芸では社寺や個人宅にある美術工芸品を、それぞれ撮影したり、計測したりします。地理では地籍図などの調査、民俗では祭りなどの行事を撮影したり、くらしや風習を聞き取って記録します。
- 古墳の測量
- 遺物の実測
- 絵巻物の撮影
- 所蔵者宅で資料の状態を確認
- 聞き取り調査
- 民俗行事の撮影
- 地籍図の調査
3 目録作成・資料の保存
資料は、内容を確認しながら1点ずつ記録し、目録を作ります。また、デジタルカメラ等で撮影し、データ化した画像を保存します。
4 原稿の執筆と校正
調査した資料をもとに、編さん委員と執筆委員で、原稿を執筆します。校正原稿には、付箋が貼られ、赤字で修正箇所が記入されます。最終校正が終わったら、印刷し、製本をします。
完成
編さん委員に聞きました
京都府立大学教授 菱田哲郎さん
茨木の歴史を正確に伝え、市の魅力を歴史・文化の面から知ってもらいたいとの思いで、市史を編さんしました。編さんにあたっては、さまざまな学説にも配慮し、公平性・中立性を考慮して、歴史資料として適正に理解できるように示そうと心がけました。
新たな資料が見つかれば、歴史的に論争がある空白部分も埋まり、前後の歴史とつながっていくので、ジグソーパズルの空いていたピースがはまるような感じで、大変嬉しいものです。例えば、かつて阿武山古墳から出土したのと同じ塼(レンガのような焼き物)が東奈良遺跡でも出土していることがわかり、藤原鎌足の足跡を探る重要な発見になりました。
歴史は、今と同じ場所で起こった事実で、歴史に出てくる人物も今と同じ場所で活動していました。皆さんに現地に足を運んでもらい、歴史に思いを馳せてもらいたいです。地域の中で歴史に触れることで、地域に対する誇りが持てるようになると思います。市史は、何かを知ろうとする時の手がかりとして活用する事典的な役割を果たせるものだと思います。ぜひ気軽に手にとって、楽しんでください。
資料提供者に聞きました
免山典子さん
父は亡くなる直前まで、地域の民俗や古文書、考古に興味を持って、資料を収集・整理していました。そのたくさんの資料を家に眠らせるのはもったいないと思ったので、数年前、市へ提供しました。私は、父が資料の話を楽しそうにするのを内容がよく分からず聞いていただけでしたが、市史に掲載されたものを見ると、少しは内容が理解できた気がします。父の生きた証が活かされ、形になって残すことができて良かったと思います。
読者に聞きました
岡市正達さん
刊行されるたび楽しみで買いに行き、史料集も含めた市史全巻は、私の大切なコレクションです。市史は、まず自分の身近なものが載っているところから見て、その後、巻頭の写真、次に関連した内容を読んで楽しみます。史料編がとても充実しているので、それぞれの時代の人や物の記録により、当時のことや人の営みに思いを巡らせることができ、タイムスリップした気分になります。通史は地元の物語、史料編は地元のガイドブックだと思います。
市史を開こう
市史はどの巻も力作ぞろい
「新修茨木市史」は、全10巻で、通史3巻、史料編6巻、別編1巻からなります。通史は、時代の流れに沿って解説がされています。史料編は、時代ごとと、考古や地理、美術工芸などの分野別に分けてまとめられています。別編は、信仰や風習、生活文化などの民俗を取り上げた内容になっています。いずれの巻もたくさんの資料にもとづいて編さんされており、読みごたえ十分の内容になっています。
歴史を知るとまちが好きになる
市史には、皆さんの身近なところで起こった出来事や存在した人、物が掲載されています。それらは、茨木という共通項で、過去と現在をつないでいます。
市史を手にとって開いて見てください。普段通っているあの道、家の近くを流れるあの川が、いつもと違うように感じて、きっと新たな発見があるはずです。その発見が、何気なく過ごしている生活に彩りを添えるかもしれません。
市史を通して自分のまちの歴史を身近に感じることで、まちへの愛着がより深まることを願います。
第1巻 通史1
市域の自然や地理と旧石器時代から戦国時代までを掲載しています。日本で初めて完全な形で銅鐸鋳型が出土した東奈良遺跡、継体天皇陵とされる太田茶臼山古墳など数多くの古墳のほか、戦国期に活躍した茨木氏について解説しています。
第2巻 通史2
織田信長や豊臣秀吉の時代から太政奉還・王政復古までの時代を掲載しています。茨木城や市域の領地支配の変遷、大名が参勤交代の時に休泊した郡山宿本陣などを紹介しています。
第3巻 通史3
明治維新から現在までの時代を掲載しています。村から町、市への変遷や、川端康成など地域ゆかりの文学者の足跡などについても掲載しています。
第4巻 史料編 古代中世
古事記・日本書紀などの古代の記録や発掘された木簡、織田信長朱印状等、631点を掲載しています。
第5巻 史料編 近世
13万点の古文書調査の中から精選された700点が、江戸時代の生活を浮かび上がらせています。福井村の大工関係資料や郡山宿本陣の資料も載っています。
別添で当時のまちの絵図が多数付いています。
第6巻 史料編 近現代
古文書調査した13万点から精選された550点が、三島郡の政治・教育の中心的役割を担ってきた時代を浮き彫りにしています。キリシタン遺物発見時の話も載っています。
第7巻 史料編 考古
旧石器時代から近世にかけての145遺跡を紹介。そのうち主要遺跡78項目を写真・遺構図・実測図などにより時代別に解説しています。
別添で全市域の遺跡分布図や郡遺跡の遺跡図が付いています。
第8巻 史料編 地理
市内ほぼ全域に渡り、明治期の景観を復原した地図・航空写真・地籍図を掲載・解説しています。私たちの暮らしている場所が、かつてどのようなところだったか一目でわかります。
第9巻 史料編 美術工芸
市域に伝わる美術工芸品を5年にわたり調査、その結果を、大量の画像とともに掲載しています。美術鑑賞としても楽しめる一冊です。
第10巻 別編 民俗
世代を超えて伝えられてきた人々の暮らしや生活文化を各地域と広域の二部構成でまとめています。
市史が見たくなったら
購入
- ところ
- 市役所南館1階 市民生活相談課
- 市役所本館3階 まち魅力発信課
- 価格
- 第1〜第3・第5〜8巻 6,000円
- 第4巻 5,700円
- 第9巻 4,500円
- 第10巻 4,000円
閲覧
- ところ
- 中央図書館・各分館
市史に興味を持ったら
「新修茨木市史」全巻発刊記念シンポジウム
いばらきの過去・今・未来 市史編さんからみえてきたもの
とき、1月21日(土曜日)、午後0時30分〜5時、ところ、クリエイトセンターセンターホール、定員、先着300人、申込、1月5日から、電話またはファックス・メール(住所・氏名・連絡先・参加人数を記入)で、市史編さん室 電話622-2184、ファックス620-7079、メールアドレス、shishi@city.ibaraki.lg.jp
第1部 基調報告「歴史のなかの茨木」
市史編さん委員からの報告
- 「交通・交流からみた古代の三島地域」 櫛木謙周さん
- 「江戸時代の茨木市域村々と幕府広域支配」 村田路人さん
- 「近現代の茨木市域と史料調査」 高木博志さん
- 「茨木における考古学発見史から」 菱田哲郞さん
- 「守り継がれた茨木の文化財」 藤岡 穣さん
- 「現在の茨木」 河井 豊副市長
第2部 パネルディスカッション
「いばらきの過去・今・未来 私たちが未来につたえていくもの」
- パネラー
- コーディネーター
- 菱田哲郎さん、遠藤俊六(市史編さん室)
櫛木謙周さん、村田路人さん、高木博志さん、藤岡 穣さん、河井 豊(副市長)、岡田祐一(教育長)