広報いばらき

特集 おかえり 地域で支える更生保護

今回取り上げるテーマは更生保護。

罪を犯した人の更生には本人の努力はもちろんですが、就労のチャンスや適切な支援に加え、地域の皆さんの理解や支えも必要です。

更生保護の活動を知り、理解を深め、市民の皆さんも一緒に、犯罪を犯した人が立ち直ることができる明るい地域を作っていきましょう。

問合先 福祉政策課 電話620-1634

更生保護でめざすもの

更生保護とは

 皆さんは更生保護という活動を知っていますか。更生保護とは、罪を犯した人が罪を償い地域社会に戻ってきたとき、二度と犯罪に走らないよう周囲の人たちが立ち直りを支えていく活動です。

 皆さんの中には、その人が更生するかどうかは本人の努力次第だと思っている人がいるかもしれません。もちろん、立ち直りには本人の努力が必要です。しかし、それだけではなく、周囲の人たちの理解や支えも重要です。本人がいくら頑張っても認められず、周囲の人からまた同じ過ちを繰り返すのではないかと冷たい目で見られたら、くじけてしまう人もいるでしょう。彼らを排除するばかりでは、安全・安心な地域社会を実現することはできません。彼らが地域に戻ってきたとき、その更生の決意を支え、立ち直るために支援することで犯罪や非行の再犯を減らし、加害者も被害者も出さないまちを作ることができるのです。

地域の中で行う更生保護

 更生保護の活動には「保護観察」や「犯罪予防活動」等があります。保護観察は地域の中での生活を通して、再犯を防ぎ、犯した罪からの立ち直りを図るための制度です。犯罪や非行をした人が保護観察官や地域の保護司から指導・助言を受け、地域の中での更生をめざします。

 また、犯罪予防活動は、犯罪や非行の予防のために市民の理解促進や犯罪の原因となる地域環境の改善に努める活動で、保護司会をはじめ更生保護ボランティア団体が中心となって行っています。

 市では、これらの更生保護諸活動を推進するため、市更生保護サポートセンターを設置して、市内の更生保護に携わる各団体と連携した活動を行っています。

犯罪や非行防止の相談窓口 市更生保護サポートセンター

 市更生保護サポートセンターでは、保護司会が犯罪や非行防止のための相談窓口を運営しており、生活上の助言・指導や就労支援などの相談に応じています。

 秘密は厳守しますので、お気軽にご相談ください。来所の際は、電話予約をお願いします。

ところ
福祉文化会館1階
相談日時
相談者と調整
問合先
同センター 電話620-8310(月曜日~金曜日、午前10時~午後4時)

立ち直りを支える 更生保護団体

 市には、更生保護に携わる団体として、保護司会、更生保護女性会、更生保護協力雇用主会、BBS会、更生保護推進協議会の5つがあります。それぞれの団体が特性をいかし犯罪や非行をした人へさまざまな支援を行っています。その活動の一部を紹介します。

保護司会

犯罪や非行で保護観察を受けている人の立ち直りに必要な指導、助言を行う。また、刑務所、少年院等から社会復帰するときに速やかに社会生活を営めるよう帰住先の生活環境の調整・相談を行うとともに、犯罪予防活動を行っている。

更生保護女性会

犯罪や非行の未然防止のための啓発活動を行うとともに、青少年の健全な育成を助け、犯罪をした人や非行のある青少年の更生に協力することを目的とする。少年院への慰問等も行う。

更生保護協力雇用主会

犯罪や非行歴のある人たちを積極的に雇用し、その更生を支援する企業からなる。彼らの希望に添えるよう、業種は多岐にわたっており、現在は27社が加入。

BBS会

BBSとは「Big Brothers and Sisters Movement」の略で、非行などさまざまな問題を抱える少年少女に寄り添い、兄や姉のような立場で立ち直りを支えている。

更生保護推進協議会

犯罪、非行のないまちをめざして更生保護活動の普及・推進を行い、市内の更生保護団体を支援する。

地域の実情にあわせて支援
保護司会

保護司会長 西上雄二さん

 保護司はボランティアですが、法務大臣から委嘱を受けた非常勤国家公務員です。地域の実情に精通しているという特性をいかしながら、犯罪や非行をした人の立ち直りを支援するとともに、地域の犯罪予防活動に取り組んでいます。月2回程度、保護司の自宅等で対象者と面接を行うほか、家族と折り合いが悪ければその間に入って調整したり、就職支援のためにハローワークに同行したり、雇用主を紹介したりとさまざまな活動を行っています。

 「私たちの活動の目的は、犯罪や非行をした人の更生と再犯防止で、地域の安全安心に貢献することです。犯罪や非行をした人は地域に戻ってきます。また、事件の被害者も地域にいます。このような場合などは特に慎重に対応するなど、トラブルが起こらないように同じ地域に住む私たちがサポートします」と同会長の西上雄二さん。

 「茨木市の場合、保護観察の対象者の7割が少年です。彼らには自分の意志で自らの更生を決意してもらうように働きかけます。私の場合、彼らにこれからの目標を持ってもらい、目標達成までに何をすべきか具体的に考えてもらうことで、目先のことにとらわれて犯罪や非行をしてはいけないと気付くように導いています」。

 西上さんが保護司を始めたのは19年前。先輩の保護司から推薦されたことがきっかけでした。  「保護司になって、対象者に裏切られるようなこともたくさんありました。しかし、それでも今まで続けてこられたのは、人は生まれ変われると信じているからです。私たち保護司が対象者を信じ抜いて、粘り強く接すれば、更生してくれると信じています」と力強い言葉で話します。

職に就くことで立ち直りを
更生保護協力雇用主会

更生保護協力雇用主会長 吉岡正宏さん

 職に就けない人の再犯率は有職者の約4倍と言われています。職に就くことは立ち直りに向けた大きな一歩です。

 「私たちは犯罪や非行をした人たちの就労支援を通して犯罪や非行のない地域をめざしています」と話すのは同会長の吉岡正宏さん。

 吉岡さんは4年前から協力雇用主の活動を始めました。

 「当社は建設業で、建設現場で働く人のなり手が少なく困っていました。昔、やんちゃした人は元気もやる気もあるけれどそれが間違った方向に向いてしまっただけで、まっすぐな道に戻せば厳しい仕事も頑張ってくれるだろうと思い、雇い始めました」。

 吉岡さんの考えは的中し、雇った3人全員が現在も前向きに働き続けているそうです。

 「3人には、現場のリーダーになれる人材に成長してほしいと思っています。罪を犯した人は自分の行いに後ろめたさを感じています。彼らは自分の行いを反省し、犯した罪をいかに償うかを考え、非行に戻ることのないように前向きに生きています。これからもより多くの人がきちんと仕事に就いて立ち直ってくれればと思います」と期待を込めて笑顔で話します。

吉岡さんの会社で働く戸田さん

 3年前に保護司の紹介で入社しました。職場の人に支えられ、この仕事を通して自分は更生できたと思います。技術を磨いて早く一人前の大工になりたいです。

少年少女の未来を開くサポート
BBS会

BBS会長 柳本理佐さん(右)、同会員 和田佳奈子さん(左)

 同会は、会員の半数近くが学生で、浪速少年院などの施設訪問や、「ともだち活動」などを行っています。

 特に「ともだち活動」は、学生会員が犯罪や非行をした少年たちと文字通り「ともだち」のように触れ合い、話し相手や、相談相手になることを通じて、彼らの立ち直りを支える重要な活動です。

 「担当した少年が自分もこの会のようなボランティア活動をしてみたいと目標を口にしてくれたとき、『この子は前を向いて生きて行こうとしている、自分のやってきたことは無駄じゃなかった』と嬉しくなりました」と会長の柳本理佐さんは自身の活動を振り返ります。

 もちろん、最初から上手くコミュニケーションがとれるわけではありません。同会員の和田佳奈子さんは「最初はなかなか心を開いてくれないこともあるので、時間をかけて関係を作っていきます。自然に会話が増えるように、クリスマス会などのイベントを少年たちと企画するなど、何かを一緒にするようにしています」と試行錯誤を重ね工夫をしながら接しています。

 「少年たちと歳が近い私たちだからこそできることがあると思います。これからも彼らに寄り添い、彼らの未来を開くサポートを続けていきたいです」と柳本さんは語ってくれました。

なぜ、非行に走ったのか 更生に必要だったこと

 犯罪や非行は自分には関係ない―。そう思っている人もいるかもしれません。しかし、犯罪や非行は皆さんの周りにも起こりうることです。元暴走族で非行を繰り返し、その後、更生した野田詠氏さんに非行に走る当事者の気持ちや更生に何が必要かを聞きました。

Profile

更生支援施設チェンジングホーム代表 野田詠氏さん

昭和51年(1976年)生まれ。10代の頃、暴走族に所属。窃盗や暴力行為などを犯し、数度少年鑑別所に入り、19歳のときに少年院送致となる。その後更生し社会復帰を果たす。14年前から更生を支援する活動を行っている。

非行に走ったきっかけ

 小学生の頃から、自分への母親の愛情が兄に比べて少ないと感じるようになり、心の中でずっとそのことが不安でひっかかっていました。中学3年生のとき、部活で打ち込んでいたサッカーや勉強が伸び悩み気分が沈んでいた時期に兄が心の病気になってしまいました。以前と違う兄の姿に、兄から離れていった人たちを見て世の中の冷たさを感じました。以前からあった心の隙間に加え、兄の一件がきっかけで、自暴自棄になり、自分の心のブレーキが壊れ、そのまま非行に走っていきました。

 その頃から、夜中にバイクで走行するようになり、暴走族に入り、非行を繰り返しました。悪いことをしているという感覚はありましたが、同じ不良相手だから傷つけてもいいと自分の基準で決めていました。ゲーム感覚で非行を行い、警察に捕まってもそれは運が悪かっただけだと自分の行いを反省することはありませんでした。

更生への転機

 そんな自分に転機が訪れたのは4度目の少年鑑別所入所の時でした。病気だった兄が回復し会いにきてくれたんです。そのとき兄が「俺もなかなかヘビーな人生やけどこれから巻き返すから、お前もがんばれよ」と声をかけてくれ、聖書を差し入れてくれたんです。聖書なんて興味がなかったけれど、自分もこのままじゃいけないと思っていたので、半分本気、半分冷やかしで読み始めました。

 読み始めた聖書の中でそれまでの価値観を変える言葉に出会いました。「神の目には、すべての人が裸であり、さらけ出されています。私たちはこの神に対して、弁明をするのです」という節です。以前は親や警察に分からなければ何をしてもいいと思っていましたが、その言葉を読み、どれだけごまかそうとしても、罪を犯したという事実を消し去ることはできないと気づきました。 

 その後に受けた裁判でも私が変わるきっかけになった出来事がありました。少年院送致を言い渡されたとき、母が「私が代わりに少年院に行きます」と泣き叫んだのです。私への罰を代わりに受けたいと叫ぶ母の姿を見て、幼い頃から抱いていた母へのわだかまりが消え、心の傷が消える大きなきっかけになりました。この二つの出来事があり、私は「前を向いて生きていくしかない」と強く思ったのです。その後、牧師になり、更生を支援する活動を行っています。

理解を持った温かいまなざしを

 犯罪や非行は誰しもが陥るおそれがあるものです。自分や家族が罪を犯すなんて考えられない。自分たちには関係ないと思う人もいるかもしれません。しかし、信じていた人に裏切られたり、病気になったときなど、「もう死んでしまいたい」と思うほどの自暴自棄に陥ると、犯罪や非行を抑制する心のブレーキが突然壊れることがあるのです。自分たちには関係ないと言い切れる人はいないと思います。

 私が更生に必要だと感じているのは「人と人との関わり」です。少しでも他人に愛されているという安心感があれば、社会は敵じゃない、その人を裏切りたくないと思います。家族や友達、近所の人など誰かからの愛を感じていれば犯罪や非行は防げます。大げさな支援でなくてもいいのです。理解を持った温かいまなざしで見守ってください。

おかえりの気持ちを胸に

立ち直りを支える地域の土壌を作る

 罪を償い、再出発しようとする人たちが社会から孤立せずに地域との絆を保ち続けることは、地域社会の一員として立ち直るための重要な要因になります。皆さんの理解と温かいまなざしによって「二度と犯罪に手を染めない」という彼らの更生への意思は確かなものになります。立ち直りを支える地域の土壌を育てることで、より安全で安心なまちを作れるよう、市でも積極的に更生保護施策を支援しています。

 彼らが地域に戻ってきたとき、犯罪や非行をした人が帰ってきたと冷たい目を向けるのではなく、罪を償って戻ってきたんだと彼らを温かく迎えてください。「おかえり」という気持ちを胸に持って。

社会を明るくする運動高揚集会

 犯罪のない明るい社会を築こうと、毎年7月を強調月間とし、「社会を明るくする運動」が全国で実施されます。

 本市でも、この運動の一環として青少年等の非行防止やその更生について理解と協力をお願いするため、高揚集会を開催します。

 今年度は更生支援施設チェンジングホーム代表 野田詠氏さんを講師として迎えます。

とき
7月5日(土曜日) 午後1時30分から(開場は午後1時)
ところ
クリエイトセンターセンターホール
定員
当日先着426人
【第1部】演奏

西陵中学校吹奏楽部、長岡秀美さん・山本善哉さん(茨木東ロータリークラブ)

【第2部】講演

「取り戻そう、愛。」~気づいた人から始まっていく~
 講師 野田詠氏さん