特集 ひきこもり それぞれの居場所へ
「居場所」
安心して身を置くことができる場所
そんな場所を持てず、苦しんでいる人がいます
そんな場所を持つためのサポートが
あってもいいと思いませんか
問合先 こども政策課 電話620-1625
理解
ひきこもりたいんじゃない ひきこもっていたいんじゃない
ひきこもり
「ひきこもり」という言葉から皆さんはどんなことを連想しますか。「嫌なことから逃げて家に閉じこもっている人」や「仕事や学校をさぼっている人」といったことをイメージする人も多いのではないでしょうか。
ひきこもりとは、さまざまな原因で就学や就労などを避け、原則6か月以上にわたっておおむね家庭にとどまっている状態を言います。
ひきこもりという言葉は病名ではなく、あくまで状態を表している言葉です。そのために、良くないイメージを抱きやすいのかもしれません。
ひきこもりたいわけではない
しかし、単に嫌なことから逃げたり、さぼったりするためにひきこもっている人はほとんどいません。多くの人がひきこもりたくないのに、ひきこもらざるを得ない、そんな状況におかれているのです。
例えば、一度社会に出て挫折した人は、再び傷つくのが怖くてひきこもってしまうことがあります。本当は社会に出たい、でも出られない。普通に生活したいだけなのに・・・、という気持ちの中で苦しみながらひきこもっています。
また、子どものころの不登校がきっかけでそれ以降ずっとひきこもってしまった人や、病気や障害により社会に受け入れ先がなかった人。本来、社会に出るタイミングで、ひきこもる以外の生き方を見つけることができず、いつしか、ひきこもりの状態が日常になってしまった人もいます。これらの人は、ひきこもっている現状が通常で、最初から社会に出るという発想すらないこともあります。
原因やきっかけはさまざまですが、ほとんどの人は自分から好んでひきこもりになった訳ではありません。苦しみながら、または、知らず知らずのうちに、ひきこもりと呼ばれる状態になってしまったのです。決して居心地の良い場所で楽をしているわけではないのです。
悪循環を引き起こす長期化
ひきこもりで問題なのは長期化です。長期化すると、年齢相応の社会経験を積む機会を逃します。同世代の大半が年齢相応の社会経験を積んでいく中、経験もなく社会に入っていくことは容易なことではありません。そして、社会参加できないまま、さらにひきこもりは長期化します。ひきこもりの期間が長くなればなるほど社会参加への壁が高くなり、悪循環は進みます。また、ひきこもっている間にうつ病を発症するなど別の問題が生じることがあります。
ひきこもりには支援が必要
こうした長期化を防ぐためには外部からの支援が必要です。ひきこもりを「さぼっている」と認識している人の中にはひきこもりに対する支援に理解を示さない人もいるかもしれません。しかし、ひきこもりになると社会活動から隔離された状態になり、自ら社会活動へ復帰することは著しく困難になります。ですから、ひきこもりという状態になってしまったら、専門機関へつなぐなど、支援がとても重要になります。
支援
みんな誰かとつながっている みんな何かとつながっている
失敗しても帰ってこられる居場所を
府子ども・若者自立支援センター茨木プラッツ 金井秀樹さん
一言でひきこもりと言っても、全てをひとくくりにはできません。その内容はさまざまで、社会に出てしっかりと働けるようになる人もいれば、病気などによりまだ社会に出ていけない人、また、障害などにより社会に出ても他の人と同様に働くことができない人もいます。大切なのは、全ての人に就労という目標を立てるのではなく、その人に合った支援、目標を立て、少しずつステップアップしていくことだと思います。
当初は気持ちが沈んでいただけであったものが、長期間ひきこもっている過程でうつ状態になっていくことがあります。同じようにひきこもっているだけのように見えても状態は変化しています。保護者の中には、ひきこもっているという事実だけをとらえ、こうした現状が理解できていない人もいます。そのことに気がつかず、頑張れば何とかなると思い、頭ごなしに叱ったり、頑張らせすぎたりして逆に悪化してしまう場合があります。
茨木プラッツでは、相談、居場所の提供、生活・訪問・就労支援などを行っています。まずは本当に必要な支援は何なのか、その人らしい目標はどこなのかを保護者や本人と相談しながら進めます。病気を治療したり福祉施策を活用したり、また、人とコミュニケーションをとり社会参加に向けて踏み出していったりと、その人と向き合いながら決めています。
私たちが行っているのは訓練ではなく支援です。頑張らせるのではなく、「やってみようかな」と思えるような環境をつくる。そして、やる気になったときにフォローをしてあげる。彼らにとって、私たちはいつでも話せる人であり、いつでも来られる場所であれば良いと思います。
社会に出てもみんなが順調にいくとは限りません。再びしんどくなった時につながり続けることができる場所、「ここからまたやり直せるんだ」と思える場所の提供をこれからもしていきたいと思っています。
ひきこもり等の面談料等を助成
- 対象
- 市民税非課税世帯、生活保護受給世帯、中国残留邦人支援給付受給世帯の、おおむね40歳までのひきこもり等の市民またはその保護者
- 内容
- 府子ども・若者自立支援センター面談料相当額として、1回5,000円を上限に助成など
- 問合先
- こども政策課 電話620-1625
府子ども・若者自立支援センター茨木プラッツ
〒567-0888 駅前三丁目6-14
電話090-6736-7024
ひきこもりと社会をつなぐ窓口は「親」
ひきこもり・家族支援ネット 上田幸子さん
長男は10歳のとき、二男は中学生のとき不登校になりました。まさかうちの子が・・・。当時はそんな気持ちでした。特に長男のときは、不登校になった理由が当初は分からず、「なぜ、学校に行けないのだろうか」と、子どもの気持ちが理解できずに苦しんでいました。
ひきこもりの子どもを持つ親は、子どもの将来に対して、とても強い不安を感じています。自分が高齢になったとき、このままの状態が続いていたら子どもはどうなるのだろうか、子どもをこのまま支え続けていけるのだろうかと。私も同じように不安を感じていましたが、現在では2人とも元気に働いて社会生活を送っています。
当時を振り返り、良かったと思うのは、私自身が早くから医師のカウンセリングを受けていたことだと思います。精神的につらい時は相談できる人がいるだけでとても楽になるものです。子どもがひきこもってしまった場合、親は「あのときああしていたら」「あんなことを言わなければ」など、「たら」・「れば」を考えてしまい、親までもふさぎ込んでしまうことがあります。目の前にいる子どもの苦しみに対して何とかしたいのにどうすればいいのか分からない、誰に相談すればいいのか分からない。そして親自身も身動きが取れないまま時間だけが過ぎていきます。私の場合は早くから相談できたおかげで私自身がふさぎこまずにすみました。
私は今、同じ思いを持つ親同士の交流会として、「親のつどい」を開催しています。そこは、今の苦しみや不安を分かり合い、安心して話のできる人たちに出会える場です。また、この会には医療・福祉・就労などの専門知識を持つ人たちの情報もありますので、支援についても知ることができます。
親自身が支援の場とつながること。そして、それを子につなぐ試みを支援者とともに模索し続けること。それが子どもの道を開くことにつながります。地域には病院やサポートしてくれる団体がたくさんあります。ひきこもっている子と社会をつなぐ最初の窓口は親であることを思い出し、まずは自分自身が支援の場とつながるように勇気を出して一歩を踏み出してください。
同じ思いを持つ親同士の交流会
ひきこもり・家族支援ネット「親のつどい」
「親のつどい」は、現在ひきこもりの家族がいる人も、過去にひきこもりの家族がいた人も参加していただき、互いを励ましあい、支えあう場所です。興味がある人はぜひ、ご連絡ください。
- とき
- 毎奇数月、第3土曜日 午後2時~午後4時
- ところ
- 駅前三丁目6-14
- 問合先
- 同交流会上田宅 電話623-5842
居場所
それぞれの居場所には それぞれの幸せがある
居場所、それはみんなで作っていくものだと思います
ひきこもりだった少年を採用し、現在も一緒に働いている
株式会社 ディクセル 細川 亨さん
私が現場の採用担当だったことから、ひきこもりだった少年の職場見学や職場実習を受け入れ、採用を決めました。
一度ひきこもりを経験すると、再び社会に出て行くのはとても大変なことだと思います。それでも、周囲のサポートがあれば、働くということはそんなに難しいことではありません。
働くために大切なことは、「これまで」ではなく「これから」、そして、働くための環境ですよね。その人がひきこもりだったかどうかは関係ありません。仕事で失敗しても、それはこれまで引きこもっていたせいではありません。誰でも失敗はするものだから、叱るんじゃなく「自分も失敗はしたよ。でも大丈夫だったから、次は失敗しないように気をつけて」と声をかけたり、休憩中一人で寂しそうだったら食事に誘ったり。当たり前のことですが、孤立しないように、誰もが働きやすい環境を作っていくことが大切だと思います。
弊社で採用した少年も、最初は、無口でおとなしく、自分のことは全く話さなかったですね。それでも、一緒に仕事をすると必ず会話は必要ですし、仕事の話の延長で今では他の話もするようになりました。みんなが働きやすいように職場のみんなで環境を整える。そうすれば、これまでひきこもりだった人でも職場の中に居場所ができ、これからの人生を歩き始めることができると思います。一緒に働く人がひきこもり経験者であってもそうでなくても、ともに楽しく働いていける環境作りをこれからもしていきたいです。
半年先が見えるようになった、今はそれが嬉しい
ひきこもり経験者 28歳 男性
僕がひきこもっていたのは、21歳から24歳ぐらいまででした。専門学校の授業についていけなかったのがきっかけです。当時は専門学校で得た技術で生活していこうと思っていたので、学校に行けなくなったときは「人生が終わった」と思い、目の前には絶望しかありませんでした。その後、母の勧めで病院に通うようになり、そこから社会との接点が生まれ、公的機関の支援による生活訓練や職業訓練を受けました。転機が訪れたのは、生活訓練で行った寮生活です。寮には同じ境遇の人がいて、一緒に頑張ることができました。やっと自分の居場所ができたと思いました。寮だけでなく、そこの仲間も僕にとって今も心の居場所となっています。
現在は仕事に就き、最近は責任のある仕事を任せてもらえるようになってきました。頑張ろうと思える環境や一緒に頑張りたい仲間。大切なものを手にいれることができたと思います。今はまだ、自分の将来が輝きに満ちているとまでは言えませんが、半年ぐらい先の自分は見えるようになりました。今の僕にとってはそれが嬉しいです。
居場所ができて、充実した毎日を過ごしています
ひきこもり経験者 44歳 男性
大学に入学して半年たった頃、精神的な病気を発症して学校に行けなくなりました。その後、何年もの間、入退院を繰り返し、家では部屋にひきこもり、病状はどんどん悪化していきました。
そんな私も今ではリビングで家族と楽しく談笑したり、仲間と大好きな野球を見に行ったりして、充実した毎日を過ごしています。
私に変化が訪れたのは、7年ほど前、作業所に通い始めた頃です。最初はほとんど通うこともできませんでしたが、作業所のスタッフに声をかけてもらったりしているうちに少しずつ通えるようになりました。そして、通えるようになるにつれ、病状も改善していき、今ではほぼ毎日通っています。
作業所のおかげで、自分が社会の中で参加できる場所があると知り安心できました。今の生活が送れるようになったのは、作業所という居場所ができたことがとても大きいと思います。
私と同じように病気で苦しんでいる人には、居場所を見つけることで楽になることがあるとぜひ知ってもらいたいです。
誰もが過ごしやすい社会を
今回紹介したひきこもりの経験者。彼らは特別な人でも、特別な人生を歩んでいるわけでもありません。ただ少し、自分の居場所を探す時間が人より長くかかっただけです。すでに社会に出ている私たちと今はまだ社会に出ることがつらいひきこもり。違いは居場所を見つけるのにかかった時間、ただそれだけです。
今、私たちが生活しているこの社会はどんな場所でしょうか。誰もが気持ちよく過ごせる場所でしょうか。これから先もたくさんの人が関わり合いながら生活するこの社会。先に社会に出た私たちが協力して、誰もが過ごしやすい社会を作っていく必要があります。
それぞれの居場所へ
ひきこもりの原因がさまざまなように、ひきこもりから脱出するステップ、そしてゴールも人それぞれです。居場所を見つけることができなかった人が、自分たちの居場所を見つけ、それぞれの人生を送っていく。ある人は職場、ある人はボランティア、ある人はまた別の場所で。みんなそれぞれ自分をいかせる場所や自分が求められる場所で生活することができます。
私たちにできることは、孤立する人がいないように、みんなで暮らしやすい職場や生活環境作りを意識したり、地域にひきこもりの人がいたら、そっと家族に支援団体などの情報を教えてあげたりすること。そんな簡単なことを少し意識するだけで、それが彼らにとって大きなきっかけとなるかもしれません。そして、みんなが意識をする社会であれば、彼らもきっと、自分の足で歩んでいくことができるはずです。それぞれの幸せがある、それぞれの居場所へ。