茨木市の特徴を活かしたまちづくり ~株式会社E-DESIGN 代表取締役 忽那裕樹さんに聴く~

平成28年8月17日(水曜日)午後2時~午後3時30分

対談要旨

株式会社E-DESIGN 代表取締役 忽那裕樹(くつなひろき)さんに、茨木市のまちづくりについて、これまでのご経験も踏まえてご意見、アドバイス等をお聞きしました。

椅子に腰掛けている、忽那さんと茨木市長

まとめ

・茨木市は『デュアルライフスタイル』を実践できる可能性を秘めている

・安威川ダム周辺をはじめとする山間部で、自分たちの力で新しいパブリックを作っていけるような、ハブ(拠点)となるような場所があればいい

・イベントに、さまざまな人の力を集結させる『フェス』の概念を取り入れてみる(行政は調整役にまわる)

・人の集まる場所を作るためには、まずはその場所を好きになってくれるファン作りから始める

対談内容

茨木市の魅力を活かしたまちづくり

福岡市長(以下、市長):私が思う茨木市の一番の魅力は、まず交通の便が非常に良いことです。さらに、市の北部には山間部、南部にはまちが広がっていて、山とまちがとても近いことが大きな魅力です。
この魅力を活かして、山間部でも、また、まちでも、里山を日常に取り入れた生活「いばらき暮らし」を提案できるように取り組んでいきたいと考えています。

忽那裕樹氏(以下、忽那氏):山とまちが近いことは大きな魅力ですね。茨木市には、週末は山間部で過ごす、また、今のうちから余生を暮らそうと考えている場所に通ってその土地に馴染んでいくといった『デュアルライフスタイル』を実践できる可能性を秘めています。

市長:里山の価値をさらに掘り起こしたいです。

忽那氏:私は、安威川ダムの周辺整備などの仕事の関係で、茨木の人と会うことが多いですが、茨木の人はとても知的で、文化・芸術・教育の分野においてもご自身の考えや思いを持っている人が多いと感じました。
そういった市民の人たちが、安威川ダム周辺をはじめとする山間部で、自分たちの力で新しいパブリックを作っていけるような、ハブ(拠点)となるような場所があればいいと考えています。

市長:たしかに、山間部にはハブ(拠点)を作っていけるようなスペースがあります。

忽那氏:まずはコンペのように、さまざまなアイデアを公開募集し、『茨木はチャンスのあるまち』だと思ってもらいます。行政からは、アイデアを出し、行動する市民、創造する企業などを徹底的に応援する姿勢が必要です。そうすれば、すごい人材が集まってくると思います。

イベントの組み立て方

市長:忽那さんは現在、どのようなまちづくりに携わっておられるのですか。

忽那氏:水都大阪のまちづくりにずっと携わってきました。また、現在は、医療、健康、スポーツ、ライフスタイルがキーワードで、『安心して暮らせる』、『健康に暮らせる』というプラットホームづくりなどです。
TSUTAYAのロゴをデザインした佐藤可士和さんと一緒に、リハビリに特化した医療施設に関する仕事をしました。コンテンツをたくさん盛り込んで、病院とランドスケープとリハビリプログラムとその周りにある公園を一緒にデザインしました。
やっぱり、人がそこに住むかどうかを決めるのは、『子どもが健康で、賢くなるかどうか』判断基準として大きいのだと思います。教育面に健康も含めて、提供することはまちづくりにとって、とても可能性が広がる視点です。また、それらのコンテンツを、多くの人々が、とにかく楽しみながら提供できるようにすることが大切です。

市長:健康という面ですと、茨木市は、スポーツをどうしていくのかというコンセプトを強くは見いだせていない状況です。

忽那氏:そうかもしれませんね。せっかく良い環境があるのに。もっとランニングやサイクリングなどの視点で、イベントや拠点づくりを打ち出せたらいいと思いますね。 安威川フェスティバルで開催した、地域を知るサイクリングイベントなどを打ち出してみてはどうでしょうか。
私たちは、『フェス』という概念を行政に提案して行動しています。『フェス』とは、それぞれに予算がない中で、『この一日に面白いことをやりたい人、集まれ!』と声だけをかけてメンバーを集めて、それぞれの活動を結びつけるきっかけをつくるというものです。さまざまな人が集まり、文化や教育、アート、デザイン、また、食をテーマにした活動など、さまざまなエッセンスが集結し、一堂に集まる機会を、祭りをつくるように展開するのです。そうすることで、活動を提供する、もてなす側の人々が、強くつながっていくのです。『フェス』において行政は、コンテンツは提供せずに、場所だけを提供し、それぞれの調整役にまわるのです。私は、水都大阪フェスのプロデューサーとして開催に携わったことがあって、1週間に20万人を動員するイベントを事業費3,000万円で行ったことがあります。一番効率的に人を集めることができ、苦情もわずか2件だけでした。もてなす側が、相互に応援しあえる仕組みをつくり、一方的な立場で関わるのではない関係を醸成することが大切だと感じました。まずは『やりたい人がやる』から始めたら良いと思います。

手に動きをつけて説明する市長

市長:どのように声かけをしたら良いのでしょうか。

説明をする忽那さん

忽那氏:まずは、みんなにやりたいことをヒアリングします。行政職員が直接ヒアリングすると対立構造を生みやすいので、よそ者である専門家などが、「あなたは何を実現したいですか。実現において困っていることはなんですか?」をしっかりと聞くようにします。たくさんの地域の活動団体にヒアリングすると、実は、困っていることを助けることを実現したい人々がすぐ近くにいることがわかってきます。その地域の資源と言える活動を丁寧につなげていくのです。

水都大阪では、『商売をして、儲けても良い特別な公園』を作ったことがあります。食をテーマにしたような、新たな商業を展開したいと思っているお店の方々に、公園で商売をする代わりに、子どもたちに今までとは違うお好み焼きの作り方を教えたり、食育の観点から小麦粉についての詳しい話を徹底的にしてもらうなど、『次世代のためのプログラム』を必ず取り入れてもらうようにしました。子育ての活動をする人々と結び付けて、お互いが協力し合えるモデルをいくつもつくりました。

市長:私も、人と人がつながる、偶然の出会いが起きるような場づくりはしなければいけないと考えています。

忽那氏:そうですね。
イベントや活動を日常化するには、ゲストとホスト、そして、キャストがいると言われます。東京ディズニーランドには、ゲストとホストと、さらには歌って踊れるキャスト(演者)がいます。市のイベントや活動には、キャスト(演者)を雇うお金がありません。それならば、ゲストの中からキャストを見つけるようにしたらどうでしょうか。現代的なまちづくりに、市民自らがキャストとなる、お祭りをつくる感覚です。

市長:お祭りは、見る側よりも、やる側の方がより楽しいのではないかと感じています。まちのそこここで、プレイヤーとして、『自分ごと』として、さまざまな形で取り組んでいただく方が増えれば、さらに良いまちになると思います。

忽那氏:ほんとにそう思います。
フェスは、単なる一過性のイベント作りではなく、人と人とをつなぐ日常の活動におけるきっかけづくりだと思っています。茨木では、今、まちと山を繋ぐハブとなるものが必要で、そのためのコンテンツづくりが大事です。茨木市内にはコンテンツはいっぱいありますが、一堂に会することがないのは残念です。都市部、山間部、それぞれの次世代に向けて、その地域ならではの強いメッセージを発することが重要であると思います。
茨木市には、せっかく府と市が一緒になって行っているプロジェクトがあるので、例えば、ダム湖の湖面を活用した幻想的な雰囲気で「大阪演劇祭」みたいなイベントを小豆島町と一緒にやってみてもよいのではないでしょうか。これまで見たことのないような、何か新しいものに取り組んでみてもいいですね。

市長:安威川ダムには湖面橋の設置も案として出ていますが、仮に設置するとしても、ハード面、運用の面とも工夫しなければいけないと思っています。橋であれば、「橋を渡る」だけでなく、「橋を舞台にする」といった橋の定義が変わるぐらいのインパクトのあることが必要なのかもしれません。
行政としては、イベント本体は企業や団体などに任せて、きっかけづくりや下支えに力を注ぎたいです。一方で、行政は、企業などとの連携にまだまだ慣れていないように感じています。

忽那氏パブリックの空間で活動してもらうために、たくさんの企業に声をかけても、ただ儲けることだけを考えてもらっては困るので、誰を幸せにできるのかという視点をしっかりと持ってもらうようにしています。協働イベントも一発ものではなく、日常生活のレベルにまで落とし込まなければいけません。

資料を説明する忽那さんと話を聞く市長

市長:これまでの取組みやお話をしていて感じましたが、忽那さんはとても活動的ですね。熱い気持ちがあふれておられます。

忽那氏:若いときにランドスケープデザインで携わったある街の再開発のときに、「自分も楽しみながらプログラムを開発していったほうがいい。」と気づきました。そして、システムとプログラムそして、環境のデザインを同時に考えるのが、本来のまちづくりではないかと思い、それを一緒に考える場所を増やしていくのが僕らの役割だと考えるようになりました。仕事のためにやっているだけじゃなく、自分も楽しむためにやるようにしています。
これからは、そのようなスタイルで、個人的には、次のテーマとして『農』がおもしろい、『農』の時代ではないかと思っています。

市長:私もこれからの可能性を感じていますし、何とかしたいと考えています。

忽那氏:ビジネスとしても農業は面白いです。まだまだモデルは少ないですが、都市と近郊の里山を繋いで循環させていきたいと考えています。

市長:茨木にも里山がありますが、単に作った野菜などを売るだけではしっくりこないと感じています。それでは農業は定着しません。多くの農家の方々には「農業はしんどいし儲からない。」という『実感』があります。儲かる仕掛け自体は難しいですが、その『実感』を少しでも変えられるような方法をともに模索していきたいです。

忽那氏:新たに農業に乗り出そうとしているある企業では、そこで作った野菜をブランド化するだけではなく、生産地でどんな体験ができるかをブランド化しています。体験自体の中に農業を溶け込むようにしているんです。それをきっかけに、そこで作られた野菜も注目されるようになります。都市近郊では事業者と連携しながら、こういった方法を取るのが良いのではないかと考えています。

市長:ところで、安威川『ダム』という呼び方についてはどう思われますか。

忽那氏:私はやめたほうがいいと思っています。大阪府さんと手掛けた「安威川ニュース」も以前は「安威川『ダム』ニュース」という名称で、内容も『ダム』に特化したものだったので、読み手が少なかった。そこで安威川流域をテーマにし、そこでの活動に視点をあてることで、読み手が増えたのだと思います。施設としての『ダム』という名称にこだわらない方がいいと思います。

市長:市では、「ダム周辺整備事業」という字面のとおり、どちらかというとハード面が前に出ているところがあります。ソフト面からも目をやって、活動したい人や何かやりたい人が集まれる場所にならないかと考えています。

忽那氏:そうであれば、いつ行っても誰かがいる、何かがあるという場所にしなければいけません。地元と協力して、ファンを増やしていく必要があります。

市長:仮にキャンプ場を整備するのだとしても、来た人にサークルみたいなのを作ってもらい、みんなで過ごしてもらいたいです。人と人とのふれあい・つながりが生まれるような仕掛けができればと思います。

忽那氏:私が以前にピクニックイベントを開催したときには、『火は使わない』、『持ち込みは何でもOK』というルールだけを決め、いろいろな人に集まってもらったことがあります。美味しい料理を持ってくる人、珍しいワインを持ってくる人、料理等は持ち込めないけど、子どもを楽しませるプログラムができる人など、さまざまな属性の人が集まり、それぞれの得意分野を出し合い交換したことで、とても楽しいイベントになりました。私の経験では、テーマやルールだけを決めて、さまざまな属性ごとに集まってもらい、最後に一斉に集結させるという方法をとると楽しくなるのだと思います。

市長:本日は貴重な経験談やご意見をさまざま聞かせていただき、ありがとうございました。今後のまちづくりに取り入れていきたいと思います。

握手をする忽那氏と市長