広報いばらき

特集1 いま、DVと児童虐待に向き合う

 パートナーへの暴力。子どもへの虐待。この二つは、違う問題としてとらえられがちです。

 しかし、これらの問題は、実は深く関わり合っています。暴力や虐待の背景にあるものを考えたとき、本当に行うべき支援が見えてきます。

 繰り返される悲しい事件を止めるために何が必要か。この特集でお伝えします。

実態 増える件数

市内で増える通告数

 1141。これは何の数字だと思いますか?これは昨年度の市内のDVと児童虐待の相談・通告件数です。グラフからも分かるとおり、ここ数年でいずれの件数も増加しています。相談等を受ける窓口が以前より増えたことなどもその理由の一つとされていますが、窓口が増えた分だけ相談や通告の件数が増えるということは、まだ明らかになっていない被害が存在することを意味しています。

心理的虐待 「面前DV」

 皆さんは「面前DV」という言葉をご存じでしょうか。面前DVとは、子どもの目の前で、親がパートナー(配偶者や同居人など)に暴力を振るうことをいいます。子どもに対する暴力こそありませんが、子どもの心に深い傷を残す恐れのある行為であり、心理的虐待の一つに挙げられています。面前DVは、パートナーへのDVであると同時に、子どもへの虐待でもあるのです。厚生労働省が10月に公表した報告によると、昨年度、全国の児童相談所で対応した児童虐待相談件数は過去最多を記録。特に大阪府は全国最多の1万3738件でした。全国的な件数の伸びは、面前DVなどの心理的虐待の増加によるものとされています。

 このことから、近年、DVと児童虐待への対応が見直されつつあります。市でも今年度、この二つの問題に対して連携して支援を行う体制を強化しました。その支援の形をお伝えします。

DV(ドメスティック・バイオレンス)

 同居している配偶者などから受ける暴力のこと。加害者が男性、被害者が女性であるケースが多い。

児童虐待

 保護者などが子どもに対して虐待を行うこと。育児放棄なども含まれる。

「暴力の再生産」を止めるために

 私は小さい頃、母と、その再婚相手である義理の父に虐待を受けました。私自身への暴力もありましたし、義父から母親に対する暴力もあった。そんな環境で育ったので、他人と関わるのが苦手になり、「自分はダメな人間だ」と思っていました。

 大人になって結婚して、今度は結婚相手からDVを受けました。そこで、なぜ家族間の暴力はなくならないんだろうと思い、勉強を始めたんです。その中で、自分は悪くなかったと分かり、救われた気持ちになりました。それで、同じように苦しんでいる人の助けになりたいと、20年前にNPO法人「WANA関西」を立ち上げました。

 でもその当時は、DVという言葉どころか、家族の中に暴力が存在するということすらあまり認識されていなかった時代。私がある講演会で自分の虐待の経験を話したとき、「このまちにはそんなひどいことをする人はいません」と言われたことがあります。そのくらい、「家族とは仲が良いもの」という幻想が世間にはあったのです。今でこそ家庭内暴力がメディアで取り上げられるようになりましたが、それでもほかの分野に比べて社会の関心は低いままだと感じます。

 DVや虐待の特異な点は、加害者が身内であるということ。暴力から逃げようとすると家を出るしかありませんが、年齢や経済面からそれが困難な場合がほとんどです。何よりも、被害者の心には、どうしても捨てきれない家庭への愛着が存在します。それゆえ自分からは声を上げられない。外から被害が見えないのです。だからこそ、社会がちゃんとした知識を持って、積極的に見ようとすることが重要になります。

 私が特に伝えたいのが、DVや児童虐待は「暴力を再生産する」ということです。たとえば面前DV。子どもにとって、親はすべての基準となる存在です。多くの家庭では、両親が支えあう姿から人間関係の築き方を学びます。ところが親がパートナーを暴力で支配している姿を見せられると、子どもは正しいコミュニケーションのとり方が分からなくなる。「暴力のある関係性」が当たり前になり、大人になってから自分も暴力を振るうようになったり、逆に受け入れたりするようになるのです。

 虐待を経験した人の自尊感情やコミュニケーション能力の回復には20年以上かかる人もいるほど、この問題は根深いもの。だからこそ、パートナーからDVを受けたときに、「子どもは殴られていないから、自分が我慢すればいい」と思わないでほしい。その我慢が子どもの人生をもつらいものにしてしまうのです。

 また、支援する側も、助ける対象を「児童虐待イコール子ども救済」などと限定しないことです。暴力の再生産を止めるためには、親と子どもの両方を支援することが必要。その認識が社会に浸透すれば、救われる家族の数は飛躍的に増えると思います。

藤木美奈子さん

貧しいシングルマザーの子どもとして全国を転々とし、児童虐待・DVを受けて育つ。女子刑務所刑務官を経て、平成7年(1995年)、女性の社会的自立を支援する「WANA関西」を設立。現在は実践研究者として、虐待・DVを受けたシングルマザーや精神障害者を支援する。ローズWAMの相談員スーパーバイザー。著書に「傷つけ合う家族」など多数。

We Are Not Alone (一般社団法人)WANA関西

 WANA関西では、自尊感情を高めるプログラムの実践研究「SEP」と、社会的自立を支援する障がい福祉サービス事業所「Maluhia(マルヒア)」を運営しています。詳しくはホームページ(http://www.wana.gr.jp/)をご覧ください。

問合先 電話06-6809-4442

連携 SOSを見逃さない

早期に被害の把握を

 家族間での暴力において大切なことは、できる限り早期に被害を把握し、適切な対応を行うこと。「相談を受ける」「被害者を保護する」「心のケアをする」など、支援はいくつかの段階に分かれますが、特に初期段階の対応をいかに迅速にできるかが重要なポイントです。

 被害の初期の段階では、自分が被害を受けていると気づかない人も多く、また、気づいたとしても、いきなり本格的な支援施設へは足を運びづらい場合があります。しかし、「小さな悩み」の相談から暴力の事実が見つかることもあるため、気軽に相談することができる場所の整備は必須。本市において、その役割を担っているのが、配偶者暴力相談支援センターとこども相談室です。

支援のために各所が連携

 配偶者暴力相談支援センターは、急増するDVの相談に対応するため、今年度新たに設置しました。専門の相談員が、配偶者・恋人・家族からの暴力に関する相談を受け付けます。一方、こども相談室では、児童虐待についての相談はもちろん、子育てに関する悩みなどを幅広く聞いています。

 いずれも、本人だけではなく、その周りの人からの相談・通告も可能です。

 しかし、それぞれの相談について、それぞれの窓口でしか受け付けないということではありません。

 面前DVのように、DVと児童虐待が密接な関係にあることから、二つの窓口は連携して被害者の支援を行っています。配偶者暴力相談支援センターで児童虐待について相談・通告をすることができますし、こども相談室でDVについての相談を行うことも可能です。また、本人の希望があれば、相談の際に両方の窓口の職員が同席し、DVと児童虐待どちらの視点からも、より迅速に支援できるようにしています。

 いずれの窓口も、相談者が発するSOSを見逃さないよう相談にしっかりと向き合い、次の段階の支援が必要な場合は、適切な支援機関へつなぎます。

配偶者暴力相談支援センター

開所日
月曜日〜土曜日(祝日・年末年始を除く)
午前9時〜午後5時
電話番号
電話622-5757

相談者の身を守るため、場所は非公表です。まずはお電話ください。

共有 ひとりにさせない

個人ではなく社会全体で支える

 これまで、何人もの被害者が立ち上がり、問題の深刻さを社会へ訴えてきました。それは、被害当事者が声を上げなければ、誰もその問題に向き合わなかったという背景があったからです。これからは、個人の活動に頼るばかりではなく、行政をはじめ社会全体で問題を共有し、その解決へ踏み出さなければなりません。

 11月は児童虐待防止推進月間、11月12日〜25日は「女性に対する暴力をなくす運動」期間です。この期間にあわせ、市や府ではさまざまな取組みを実施します(トピックスのホームページ参照)。

 いま、子育てやパートナーとの関係に、悩みを抱えていませんか。あるいは周囲に、そんな人はいませんか。もしも少しでも思い当たるところがあれば、どうか勇気を持って相談してください。その勇気が、将来にわたる暴力の連鎖から親子を救います。

問合先 DV=人権・男女共生課 電話620-1640、児童虐待=子育て支援総合センター 電話624-9301

こども相談室

開所日
月曜日〜金曜日(祝日・年末年始を除く)
午前9時〜午後5時(子育て相談は午前10時〜午後4時)
ところ
東中条町2-13(子育て支援総合センター内)
電話番号
児童虐待相談 電話624-8951
子育て相談 電話624-0961

ご活用・ご参加を

「ウィズユー・クローバー」ピンバッジを販売

 DV防止のシンボルであるパープルリボンと、児童虐待防止のシンボルであるオレンジリボンを組み合わせ、市オリジナルのDV・児童虐待防止シンボルデザイン「ウィズユー・クローバー」ピンバッジを作成しました。1個300円で、人権・男女共生課とローズWAMで販売しています。ぜひ、啓発にご活用ください。なお、収益金は、市のDV・児童虐待防止のための取組みにあてられます。

問合先 同課 電話620-1640

暴力防止啓発講座

 今回の特集に登場した藤木美奈子さんも講師を務めます。

とき
(1)11月5日(木曜日)・(2)18日(水曜日)、午後1時30分〜3時30分
ところ
ローズWAMワムホール
対象
16歳以上の市内在住・在勤・在学者
定員
各180人
内容
(1)アルコール・薬物・ギャンブル依存症(新阿武山クリニック精神科ソーシャルワーカー西川京子さん)
(2)傷つけあう家族(WANA関西代表理事 藤木美奈子さん)
申込
ローズWAM 電話620-9920