広報いばらき

特集 未来へステップ

子どもたちが未来に対して抱く、夢や希望。
その夢に向かって、彼ら・彼女らが、自由にのびのびと歩き出すために、周りの人たちは何ができるでしょうか。
いま、市内の学校で、子どもたちの可能性を伸ばすさまざまな取組みが行われています。
そのキーワードは、「学力」。
ステップアップする茨木の教育の姿をご紹介します。

問合先 学校教育推進課 電話620-1683

学ぶために必要な力

全国平均を上回る学力

 子どもたちの学力状況を把握する目的で、毎年全国的に実施されている「全国学力・学習状況調査」。今年度の結果で、茨木市は小・中学校ともに全国平均を上回りました(下記)。市ではここ数年、同調査の正答率が上昇し続けており、設問に対する児童・生徒の理解力は着実に向上しています。

 顕著に伸びているのは、テストの成績だけではありません。同調査の中で実施される「児童生徒質問紙調査」のうち、「人の役に立つ人間になりたいと思う」などの項目で、「当てはまる」と答えた児童生徒の割合も同じように増加しています(下記)。

平成25年度全国学力・学習状況調査結果

小学校

(※各項目、茨木市、大阪府、全国の順で、平均点)

国語A
66.8
61.2
62.7

国語B
54.1
47.9
49.4

算数A
80.8
77.1
77.2

算数B
63.3
57.3
58.4

合計
265.0
243.5
247.7

中学校

(※各項目、茨木市、大阪府、全国の順で、平均点)

国語A
77.4
73.3
76.4

国語B
68.9
63.0
67.4

数学A
67.1
61.7
63.7

数学B
44.3
38.8
41.5

合計
257.7
236.8
249.0

児童生徒質問紙調査の項目の一つ
「人の役に立つ人間になりたいと思う」

小学校

平成19年 83.3%→平成25年 93.2%

中学校

平成19年 91.5%→平成25年 95.6%

 なぜ、この数年で、ここまで良好な結果が出たのでしょうか。そこには、小・中学校と市の教育委員会が一丸となって取り組んだ計画の存在があります。

 その計画の名前は、「茨木っ子プラン22」と「茨木っ子ステップアッププラン25」。学力向上のための施策を取りまとめたもので、それぞれ3年間を1サイクルとし、プラン22が平成20年度から、プラン25が平成23年度から始まりました。その特長は、「学力向上」の意味を広くとらえたところにあります。

本当の学力とは

 皆さんは、「学力」と聞いて何を連想するでしょうか。真っ先に思い浮かぶのが「テストの成績」という人は多いかもしれませんが、学力とは、「学ぶために必要な力」のことです。勉強しようという意欲、規律を守る意識など、「テストで点を取ること」以外のことも、学力の重要な要素に含まれているのです。

 プランでは、「学校での学習」「家庭学習」「子どもの意識」が充実してこそ本当の学力が身につくという考えの下、「学力向上」の定義を「狭い意味の学力(テストの成績など)に加え、子どもの意欲・学習態度・生活習慣を向上させること」としました。

 それでは、プランの詳細と、そのプランに取り組む学校現場を紹介します。

学力と人間的成長

学力の樹が示すもの

 さまざまな要素が絡み合って形成される学力。学力向上の目標を明確にするため、プランではそれらの要素の関係を、「学力の樹」という形で表しました。

 木は、「葉」と「根」、そしてそれをつなぐ「幹」で構成されています。「学力の樹」の葉は知識や技能を表すもので、勉強などを通じて獲得し、いわゆるペーパーテストで測ることができます。

 一方、根は子どもの関心・意欲・態度です。木の根は通常、土の上からは見ることができません。同じように、「学力の樹」の根も、見ただけですぐに分かるようなものではありません。いわば「内に秘めたものすべて」であり、その子の良さや個性です。

 その葉と根をつなぐのが幹です。幹はこの場合、思考力や判断力、表現力など、人と関わる中で身に付ける、自分なりの考えです。葉で生まれた養分と、根が吸い上げた水が幹を行き来し、やがて幹を太くさせるように、確かな関心・意欲を持って知識を培い、多くの人と交流することで、子どもたちは豊かな自己表現ができるようになっていきます。

 学力向上のために必要なことは、葉と根の両方に十分な栄養をやり、幹を太くして、木全体を成長させること。そして木の成長とは、子どもたちの豊かな人間性・社会性の成長にほかならないのです。

5つの力

 では、木を成長させるためには何をすべきか。プランでは、「学力の樹」全体をしっかりと支える根の部分に着目し、育みたい力として、5つの力を設定しました。それが、「ゆめ力」、「自分力」、「学び力」、「つながり力」、そして「体力」です。

 この5つの力が伸びたかどうかは、前述の児童生徒質問紙調査の結果などから判断します。たとえば「ゆめ力」であれば、「ものごとを最後までやりとげてうれしかったことがある」。「自分力」であれば、「学校のきまりを守っている」など、関係する質問の回答割合を年度ごとに集計・分析し、前回と比べてどれくらい数値が改善したかを見ていくのです。

 各小・中学校では、この力が伸びるように、教育委員会と連携しながら、さまざまな取組みを行っています(下記参照)。

学力低位層に目を向けて

 また、プランが定める学力向上目標の特長が、もう一つあります。それは「学力低位層を減少させることで全体の学力向上を図る」ということです。

 平成18年度に府が実施した「府学力等実態調査」の結果では、全体の正答率はおおむね良好だったものの、中学生の正答率で、「二つの山」が見られました。これは学力の中間層の正答率が下がり、低位層に移行したため、高位層と低位層に正答率の分布が偏ってしまった状態です。これを解消するためには、低位層を押し上げることが必要でした。

 そこで教育委員会は、学校に専門支援員などを配置し、子どもに応じたきめ細やかなサポートを図りました。また、学習面でつまずく子どもは家庭生活面でも課題を持っている場合が多いことを考慮し、子どもや保護者に対する心理的支援や、課題を持つ家庭への福祉的支援を行いました。その成果が実り、現在は、学力高位層の割合が増え、低位層の割合は減少しつつあります。

5つの力

ゆめ力 将来展望を持ち、努力できる力

自分力 規範意識を持ち、自分をコントロールできる力

学び力 学校の授業で、意欲的に学ぶ力

つながり力 他者を尊重し、積極的に人間関係を築こうとする力

体力 運動に親しみ、健康を維持増進する力

学校でこんなことしてます♪

「5つの力」育成につながる取組みの一部を、実際の様子とともに紹介します。

ゆめ力

2分の1成人式(太田小学校)

 自分の夢や、それをかなえるために何をするかなどを、大人たちの前で発表。自分の思いをまとめ、それを声に出すことで、児童に将来の自分をイメージしてもらう。

島川 悠さん(太田小学校4年生)

みんなの前で話すのは恥ずかしかったけど、楽しかったです。将来はアナウンサーになりたいな。本を読んだり、友達といっぱいおしゃべりしたりして、スラスラ話せるようになりたいです。

自分力

クリーンキャンペーン(三島中学校)

 地域の人と学校の周りや河川敷を清掃。参加は強制ではなく、生徒の自主性に任せている。

川上美空さん(三島中学校3年生)

昨年に続いて参加しました。清掃活動をしているとき、すれ違う人に「ありがとう」と言われるとうれしくて、やって良かったと思います。友だちや地域の人と一緒なので楽しく活動できました。

学び力

学びんぐクラブ(三島小学校)

 放課後、児童が自主的に参加し、プリント教材や宿題に取り組む。教員のほか、専門支援員や大学生も学習指導する。

ICT(情報通信技術。コンピューターなどを活用した技術のこと)授業(北中学校)

 スクリーンなどを使い、視覚的にわかりやすい授業を展開。生徒の授業への興味を高めている。

藤田みやびさん、南 早葵さん(北中学校3年生)

ICTを使った授業は、映像があるので分かりやすいし、クイズみたいな授業もあって、楽しく勉強できます。手元のボタンで答えて、スクリーンに何人正解者がいたか表示できるような装置があればもっと面白いなと思います。

つながり力

演劇コミュニケーション(南中学校)

 「いじめ」などのテーマで、生徒自ら劇を作る。その過程で他人を思いやる心を育む。

折内俊哉さん(南中学校2年生)

ストーリーを考えたり、演技をしたりと、面白いところがいいですね。クラスのみんなの目がキラキラしていて、授業に積極的に取り組んでいるなと思います。

体力

体力向上授業研究会(天王小学校)

 市内の小・中学校の教員が体育の授業の様子を参観し、どのような工夫をすればよいか話し合う。

高橋清人さん(天王小学校1年生)

今日は色々なやり方でボールを運びました。たくさん工夫できて、楽しかったです。運動が好きなので、これからもいっぱい体を動かしたいです。

子どもたちが夢を追うために

未来へ羽ばたける環境を

 子どもたちが一日の大半を過ごす場所、学校。小・中学校の9年間で、子どもたちは驚くほど成長します。人との関わり方を覚え、自分の興味や関心を自覚し、夢に向かって歩き出す準備を整える。もちろん知識を蓄えることも大切ですが、それ以上に、人として大切なものを育む時期です。教育の役割は、子どもたちが生き生きと未来へ羽ばたけるよう、環境を整えることです。

 そして、そのために大事なことが、家庭や地域の協力です。子どもたちが家にいるとき、あるいは地域で活動するとき、「子どもの人間性を育てる」という視点で寄り添うことが、子どもにとって何より心強いことです。プランを作るのは教育委員会や学校ですが、子どもを育てるのは周りにいるすべての人たち。家庭や地域と連携しながら、長期にわたって取組みを継続していくことで、子どもたちが夢を追う土壌ができるのです。

 現在のプランは今年度で終わり、来年度からはまた新しいプランを始める予定です。市の教育もまた、子どもたちと同じように成長中。これからの茨木の教育は、皆さんとともに作られていきます。

interview

大阪大学大学院人間科学研究科教授 志水宏吉さん

「プラン22」「プラン25」の策定・実施にあたり、アドバイザーとして協力

すべての子どもに学力と社会性を磨く機会を

 近年、公教育のあり方はさまざまな面で見直されつつあります。

 まず、学力格差を埋めること。20年ほど前に比べ、現在の子どもたちの学力は、学力の高い子と低い子が二極分化しています。ここでの落とし穴は、学力の低い子が増えても、学力の高い子の点数が伸びれば、平均点は変わらないということ。学力の低位層に目を向け、その層を伸ばしてやらないと、高位層と低位層の格差はますます広がるばかりです。公の教育である以上、「置き去り」の子どもたちを作るようなことはあってはなりません。その意味では、茨木市が学力低位層に目を向けたのは、画期的と言えるでしょう。

 次に、「社会性を育てる」こと。茨木市で言えば、「5つの力」の設定がこれに当たります。少し前までは、学校の教育と言えば「知識を教える」ことでした。それが見直されてきたのは、昔と今とで学校が担う役割が変わってきているからです。

 昔は、知識や技能以外の部分については地域や家庭で過ごす中で学ぶことができるものでした。ところが現代では、社会全体の状況が変化したことで、学校の外でできることが極端に減りました。自然と触れ合うこと、地域コミュニティに加わること、大人の仕事を手伝うことなど、地域や家庭によって、子どもが体験できることに差がついてしまった。だからこそ、さまざまな体験ができる機会を用意してその差を埋め、子どもの可能性を広げることが、今の学校の役割になったのです。

 学校は子どもたちにとって「小さな社会」。その中で、すべての子どもに学力と社会性を磨いていく機会を提供することが、これからの公教育に不可欠なことです。

無限に広がる子どもたちの未来。
子どもたちが夢に向かって
大きく羽ばたいていく一年が、
今年も始まります。