川端康成青春文学賞 入賞作品と選評

文学賞イメージ

2018年6月30日まで短編小説を募集していた「川端康成青春文学賞」について、入賞作品は次のとおりとなりましたので発表します。

入賞作品

大賞

「地上〇mから」 冴知 いゆ(22)奈良県

2019年1月10日(木曜日)発売の月刊「中央公論」2月号に全文を掲載します。


優秀賞

「翔けろ!モンステラ」 小竹田 夏(二人による合作)東京都


佳作

「直射的撮影法」 林宮 紗映(22)大阪府

※佳作2篇中1篇は該当なし


奨励賞

「梨の花」 漆原 正雄(33)鳥取県

選評

津村記久子氏

十三年仕事として小説を書かせていただいていますが、十枚から三十枚というのはそんなに簡単な枚数ではないと思います。ワンアイデアで突っ切るにはすこし多いですし、思いの丈を書き込むというには少ない枚数なのではないでしょうか。そんな制限に挑戦してくださった応募者のみなさんに、まずは敬意を表したいと思います。

賞として初めての選考ということで、基準をどこに置いたらいいのかやや不明瞭なまま自分なりの採点をしたのですが、当日茨木市の方や他の選考委員さんと話し合い、冴知いゆさんの「地上○mから」が大賞にふさわしいという決定になりました。個人的にはまず、文章がとても上手だと感じました。何を書いているか瞬時には理解できなくても、とにかく読み進めたいと思わせる力があるように思います。また、単に文がうまいというだけではなく、麻雀屋の青年のエプロンの紐が縦結びになっているという記述など、視点人物に何が見えているかを考えた上で、何を書くのかについての取捨選択にも優れていて、読み手を信頼させる目線も持たれているように見受けられました。文章や場面の流れのスムーズさには、非常に書き慣れている(読み慣れてもいる)ような印象を受けます。また、分量に対してこのぐらいのことを書きたい、という見当もつけられる方だと思います。ですがわたし自身は、小説が進むにつれ、この上手でよどみない語りが、語りのための語りであるようにも感じたので、強くは推しませんでした。ただ、技術は確かですし、賞の主旨にも沿うとのことで、この結果には満足しています。達者すぎて枚数制限がそのようにさせているかもしれませんので、よかったらもっと長い小説に挑戦していただけたらうれしいです。

優秀賞の小竹田夏さんの「翔けろ!モンステラ」は、もどかしい部分がいくつかありつつも、とても活き活きしていて読んでいて楽しかったので、わたし自身は最も良い評価をつけました。女の子同士のライバル関係やモンステラのたとえ、先輩との実験がやがて津軽海峡へ、とやや唐突に様々な展開をする本作ですが、漁師さんが方言を話すことや、次々とトラブルに見舞われる様子には具体性があります。瑞々しく、エネルギーのある作品だと思いました。

佳作の林宮紗映さんの「直射的撮影法」は、衒学的な言い回しや一つの行動や思考に対する文章の多さにやや不安を覚えましたが、地底人や高台や自主映画といったモチーフを通して抽象的な書きたいものを捕まえようとする姿勢には、好感の持てる切実さを感じました。

奨励賞の漆原正雄さんの「梨の花」は、うまくまとめられた小説でありながら、ラストがやはり気にかかりました。小説の体裁の整え方はすで理解しておられる方だと思うので、次は自分自身の主題を書き込むことを目標にしていただければと思います。

羽田圭介氏

高校時代に自分が文学新人賞を受賞した際、未熟で粗削りな部分はあったものの、受賞させてもらった。だから初めて文学賞の選考委員を務めるにあたり自分も、なにか光るもの、衝動を感じられる作品を優先的に選び、多くの人々にチャンスを与えたいと思いながら、各作品を読んでいった。さてその結果は。

「あんぽ柿の宿」文章は流麗。“さんぜ、さんぜ”という宮澤賢治っぽい反復が全然効果的ではなく、既にある小説の表面を模したという印象。「カゾクの団欒」“ゴザ”と目にして、い草でできたあのゴザが喋ったり箸を動かしたりしているのかと思い、ものすごい擬人化だと期待しながら読み進めていると、ただの大学生男だと判明。その肩すかし以降、何も感じなかった。「霧中」と「空白に問う」の文章はそれなりのレベルには達している。ただ、書かれていることにまるで興味がもてなかった。小説ふう、という印象。「仮想の功罪」はSF的設定を描こうとする姿勢は良かった。震災やそれに伴う悲しいイメージを扱おうとして、その責任を負ってもなお飛翔する力が不足していた。「みなとも舟になる」主人公の感受性が繊細だと、色々なことが憂う対象になり話は生まれるが、多くの人にとってはどうでもいい。小説の文章はそれを相対化する視線を内包すべきだ。「若狭幻想」安全な位置にいる高齢男性が、自分にとって都合の良い思い出話を延々と聞かせてくる。主人公もそうだが、作者も自分の文章の客観視ができていない。他者的な視線に欠けていた。「いつか君に、また会うために」文章は拙く、展開も既視感だらけで平凡。台湾映画『あの頃、君を追いかけた』と似たストーリー展開。しかし他多くの候補作のように、小説の雰囲気だけ真似た嘘っぽさがない。作者は読書経験も乏しいと思われるが、無知なりに精一杯書いたという素直さが感じられ、好感がもてた。

「地上〇mから」本作が唯一、良いところを探してあげようという親切心も不要なままに、一読者として読めた。粗削りだがエネルギーの感じられる作品には出会えないのなら、無理な歩み寄りはやめ、プロの作品を読むのと同じく素直に評価しようと、評価軸を変えた。文章単位の小さな飛躍が心地良く、観察眼が素晴らしい。それは後天的には身につかない。小説の中で起こる出来事自体にはまるで面白みが感じられなかったが、文章は読めた。この人は自分の書きたいことを見つけられたら良い小説を書くだろうと、強く推した。

優秀賞「翔けろ!モンステラ」登場人物の心の動きや行動には驚くほど意外性がないのだが、ドローンの細部であるとか、漁協の協力が必要である等、この情報をちゃんと描かなければこのテーマは書けないとする作者の熱が伝わってきた。佳作「直射的撮影法」男二人によるドライな空気感が良かったので、推した。奨励賞「梨の花」情報の出し方や風景描写がうまく、展開のさせ方等、バランスに優れていた。しかし、思わせぶりが過ぎるラストが大問題。書き直し前提であれば佳作にひっかかるかという話し合いになったが、フェアでなくなるとし、奨励賞にとどめた。「天満の桜」歴史小説っぽいいかにもな文体に姿勢を正したが、次第に、特に意図もなくそれっぽい文体を用いているだけだとわかった。しかし他選考委員による、これを書きたいという意思が感じられる、という感想を受け、その点は評価されるべきかと思った。

大激論の可能性も考えながら挑んだ選考会だったが、選考委員三人の感想は似たようなもので、スムーズに終わった。選考終了後、下読みの人たちが各候補作にどのような点数をつけたかを教えてもらった。すると、最終選考に臨んだ三人と同じような評価軸で各作品を評価していったことがわかった。つまり今回落選した約一三〇〇作品のうち、下読みの人たちが読むにはレベルが高すぎたため落とされた作品は、存在しない。落とされた作品はすべて、落とされるべくして落とされた。約一三〇〇作品送られてきても、まともに読めたのは三、四作品。大賞作品ですら、手放しで評価されたわけでもない。厳しい世界だ。

ただ、短編小説は難しい。物語性に頼れないからだ。結果的に、文章の巧みさで選ぶしかなくなる。新人特有の勢いや、青春っぽさで勝負するのが困難だ。だから次回からは、規定枚数の上限を多めにした方が、賞の名にあう作品が集まるのではないかと思っている。

大野裕之氏

「地上〇mから」はもっとも巧みな作品でした。私は映画・演劇の人間ですので、あえてその視点から述べると、本作の細部の描写は抽象的な言葉に溺れず、精巧なレンズで写したかのように生き生きとしていて、列車内の女性のコートの黒く大きなボタンに映る景色の「都会とも田舎とも云えない形が、魚眼レンズのように過ぎていった」ところなど、いくつか映像にしてみたいポイントがありとても刺激を受けました。五感のすべてを使ったマルチメディアな観察力は川端康成の名を冠する賞にふさわしいものでしょう。

ただ、演劇人として言うと、一言でも強い台詞があればなお良かったと思います。生きた人物の生きた台詞、作家の裡からほとばしる言葉。作家としての文体を十分に持っているのだから、本当に書きたいことをぶつけてほしい。次はそんな作品が読みたいと思いました。

優秀賞の「翔けろ!モンステラ」は、先輩の万代や漁協の人たちなど、脇役が面白く書けていて、ドラマの運びもスムーズ。機械の描写にも説得力がありました。津軽海峡を小型水上機で渡るという荒唐無稽な話を最後まで読ませる作者の念を感じました。ただ、モンステラが何なのかピンとこなかったのと、最後に友人にポストカードを出すところはもったいないかなあと。主人公は友達への劣等感を克服することなんかよりも、もっと大きなものを得たはずなので。

佳作の「直射的撮影法」は作者の問題意識が前面にきていて、好感が持てました。地底人まで登場して就職活動の話かいなと思いましたが、個人の怒りや悩みは創作の源です。ただ、それを普遍的なものにするには、細部の積み重ねが必要です。たとえば、低予算の現場で地面を切るように見せる撮影方法の描写がもっとリアルだと、学生映画の楽しみや大変さが感じられて、読者が共感できるユーモアも絶望も滲み出たと思います。奨励賞の「梨の花」は、過去が現在に影響を及ぼす設定が巧みでした。ただ、最後は放置せず書き抜いてほしいと思いました。

川端康成の青春小説には、数えの十六歳までにすべての肉親を失ったことに起因する深い絶望と、だからこそ求めるナイーブなまでの希望とがあります。入賞の皆さんは巧みな筆力をすでに持っているので、どうしても書かなければならない切実なテーマと格闘して、野心あふれる作品を創られることを期待しています。

大賞作品を『中央公論』に掲載

大賞作品は株式会社中央公論新社の月刊『中央公論』2月号(2019年1月10日発売)に掲載されます。ぜひご覧ください。

 

 

(参考)最終選考作品

「タイトル」作者名(在住地)(掲載は作者の名前順・敬称略)

 

「仮想の功罪」相川 和彦 (神奈川県)

「梨の花」 漆原 正雄 (鳥取県)

「あんぽ柿の宿」 おおぬま いくこ (宮城県)

「いつか君に、また会うために」 音羽 真遊 (愛媛県)

「地上〇mから」 冴知 いゆ (奈良県)

「翔けろ!モンステラ」 小竹田 夏 (東京都)

「カゾクの団欒」 瀧本 一智 (千葉県)

「空白に問う」 茅ヶ崎 つらみ (神奈川県)

「霧中」 鳥山 まこと (埼玉県)

「直射的撮影法」 林宮 紗映 (大阪府)

「若狭幻想」 藤白 ゆき (東京都)

「天満の桜」 三角 重雄 (千葉県)

「みなとも舟になる」 木綿澄 たき (山口県)
 

なお、応募総数等は下記のリンクから確認いただけます。

募集内容

募集期間

平成30年(2018年)2月1日~6月30日
※メール・電子フォームは必着、郵送は消印有効

募集内容

日本語で書かれたオリジナルの未発表小説(ショートストーリー)とし、恋愛、ミステリー、ホラー、SFなど、ジャンルは不問。若い世代の応募を歓迎し、みずみずしい感性で青春を描いた物語を期待します。

応募に当たっては、下記の規定を順守してください。

規定

  1. 日本語で書かれた未発表作品であること。
  2. メール、電子フォーム、郵送のいずれかで応募(メール、電子フォームを推奨)。400字詰原稿用紙換算で10枚~30枚とし、原稿の左下に通し番号を記入。鉛筆書きは不可。パソコン原稿の場合は、A4判のマス目のない用紙に30字×40行・たて書きで印字。メール、電子フォームに添付するデータ形式はWord文書のみ受付(様式は下記からダウンロード可)。
  3. 表紙に題名、氏名(ペンネームの場合は本名も併記)、ふりがな、生年月日、年齢、性別、住所、連絡先(電話番号、あればメールアドレス)、公募を知った媒体名(チラシ、ホームページなど)、パソコン原稿の場合は400字詰原稿用紙換算枚数を明記してください。
  4. 応募原稿はいかなる場合も返却しません。必要であればあらかじめコピーしておいてください。応募後の原稿の修正はできません。
  5. 選考に関するお問い合わせには一切応じられません。
  6. 選外の通知はいたしません。
  7. 入賞作品の一切の権利は主催者に帰属します。
  8. 入賞作品は二次利用(脚本化・漫画化など)する場合があります。
  9. 入賞者の氏名・年齢等については、報道機関に提供することがありますのでご了承ください。

質問はこちらを参照してください

賞及び賞金

大賞(1篇)50万円、優秀賞(1篇)20万円、佳作(2篇)7万円
大賞作品は、株式会社中央公論新社の月刊「中央公論」に掲載

選考委員

津村記久子氏

津村記久子氏
小説家。2005年、「マンイーター」(単行本化の際「君は永遠にそいつらより若い」に改題)で第21回太宰治賞を受賞し、デビュー。
2009年、「ポトスライムの舟」で芥川賞、2013年、「給水塔と亀」で第39回川端康成文学賞受賞。その他の著作に『カソウスキの行方』『ミュージック・ブレス・ユー!!』など。

羽田圭介氏

羽田圭介氏
小説家。高等学校在学中の2003年、「黒冷水」で第40回文藝賞を受賞し、デビュー。2015年、「スクラップ・アンド・ビルド」で芥川賞を受賞。その他の著作に『「ワタクシハ」』『成功者K』など。

大野裕之氏

大野裕之氏
脚本家・プロデューサー、日本チャップリン協会会長。川端康成ゆかりの茨木高校卒。2014年、映画『太秦ライムライト』のプロデューサーと脚本を担当。ファンタジア国際映画祭最優秀作品賞、ニューヨーク・アジアン映画祭観客賞など国内外13の賞を受賞。

この記事に関するお問い合わせ先
茨木市 市民文化部 文化振興課
〒567-8505
大阪府茨木市駅前三丁目8番13号
茨木市役所南館8階
電話:072-620-1810
ファックス:072-622-7202 
E-mail bunka_s@city.ibaraki.lg.jp
文化振興課のメールフォームはこちらから